老後不安の正体とは?介護・保険・社会保障のこれからを考える

老後不安の正体とは?介護・保険・社会保障のこれからを考える

今回は、福山大学 経済学部 経済学科にご在籍で、公共経済/地方財政/社会保障などを研究されている石田 真准教授に、マネーキャリア編集部が独自インタビューを行いました。

石田准教授のプロフィール

<経歴>

2026年4月 - 現在福山大学, 経済学部 経済学科, 准教授 

2025年4月 - 2026年3月東北大学, 大学院法学研究科, 特任助教 

2023年12月 - 2025年3月琉球大学, 研究推進機構, 主任URA 

2003年4月 - 2023年11月大阪府庁 

1998年4月 - 2002年3月日本放送協会

 

<学歴>

2023年4月 - 現在大阪公立大学大学院, 生活科学研究科, 博士後期課程 

2021年4月 - 2023年3月大阪市立大学大学院, 生活科学研究科, 前期博士課程 修了

 

<論文>

日本の介護保険制度導入時における 保険者単位決定過程の検討 ─言説的制度論及びプロスペクト理論に基づくプロセス分析─ 

石田 真

関西社会福祉研究 (11) 95-107 2025年3月

 

保険者別第1号被保険者1人当たり介護費用に関する「公平性」検討の一試論 ―変動係数、ジニ係数、及び分位数に基づく外れ値検出手法による保険者別経年変化分析― 

石田 真

九州地区国立大学教育系・文系研究論文集 11(2) 2025年3月

 

超高齢社会における行政不服審査法の課題 

石田 真

自治体学 38(1) 68-71 2024年12月 

 

<講演・口頭発表等>

介護保険制度における保険料負担と介護費用の地域差に関する分析 -Jaccard 係数と階層的クラスタリングによる類型化の試み- 

石田 真

社会政策学会第150回(2025年度春季)大会 2025年5月18日

 

介護保険制度の保険料の地域格差に関する研究~大阪府内の介護保険料決定に関する重回帰分析~ 

石田 真

関西社会福祉学会・日本社会福祉学会関西地域ブロック 2024年次大会 2025年3月9日

 

保険者別第1号被保険者1人当たり介護費用に関する「公平性」検討の一試論―変動係数、ジニ係数、及び分位数に基づく外れ値検出手法による保険者別経年変化分析― 

石田 真

2024年度(第89回)社会政策学会関西部会 2024年12月7日

 

他3件


引用:researchmap

介護費用は老後にどれくらい必要?在宅介護・施設介護で異なる実態

石田准教授のインタビュー画像1

老後の介護費用の平均とは

質問

一般的に、老後の介護費用はどのくらいを想定しておくべきなのでしょうか?

公益財団法人生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査(2人以上世帯)」の2024年度の調査によると、平均的な介護費用は月額9万円、平均的な介護期間は4年7ヶ月とされています。

 

また、上記に加えて、一時費用(「在宅介護の準備や住宅改修にかかる費用」や「介護施設に入居する際の入居一時金」)は約47.2万円です。これらを踏まえて平均介護期間をもとに試算すると540万円ほどになります。

 

ただし、試算上はこれだけの介護費用が必要になりますが、公的介護保険と自己負担を分けて考える必要があります。

 

公的介護保険には、高額介護サービス費制度があり、介護保険サービスの自己負担分については、所得区分に応じて月ごとの負担上限が設けられています。対象となる自己負担額が上限を超えた場合には、その超過分が支給されます。

 

ただし、対象外となる費用もあります。その例としては、施設介護の場合は居住費・食費等のいわゆる「ホテルコスト」、在宅介護であっても、要介護認定による公的介護を上回る部分で必要となった介護サービスなどが想定されます。

 

いずれにせよ、介護保険の支給限度額を超えて利用したサービスや、そもそも保険給付の対象外となる食費・居住費・日常生活費、任意サービスなどは自己負担になります。そのため、介護費用は一律で「いくら必要」と断言するのは難しく、在宅介護の住環境や家族の有無によってかなり幅があると言えるでしょう。

在宅介護と施設介護では家計負担にどの程度の差があるか

質問

在宅介護と施設介護では、家計負担にどの程度差がありますか?

一番顕著な差は、居住費と食費になります。

 

施設介護の方では、先ほどのホテルコストも加わりますので、単純には、おおむね居住費、食費ともにそれぞれ3〜4万円、在宅介護に比べて上乗せされるイメージとなります。

 

先ほど言及した「生命保険に関する全国実態調査」でも、在宅が平均5.3万円、施設が平均13.8万円で、差は約8.5万円となっており、一般的に家計負担という観点では、施設介護の方が金額的な負担が大きい傾向があります。ただし、在宅の場合、これ以外に通常の生活費がかかる点に留意が必要です。

 

他にも、サービス付き高齢者向け住宅(安否確認と生活相談サービスがついたバリアフリー構造の賃貸住宅サービス)は介護保険施設ではないですが、高齢者向けの住まいです。家賃、共益費、食費、生活支援サービス費などが発生するため、在宅介護の費用に加え、住居関連費用が大きくなる場合があります。

介護保険料はなぜ地域差が生まれるのか?

介護保険料が自治体ごとに異なる理由

質問

介護保険料が自治体ごとに大きく異なるのはなぜなのでしょうか?

介護保険制度は市町村を基本的な保険者としており、制度の運営も市町村単位で行われているからです。

 

市町村における介護保険料は、介護サービスにおける給付費の見込み額、要介護認定者数、施設整備の状況などを鑑みて決まります。

 

そのため、後期高齢者の割合が高い地域、サービス利用量が多い地域、施設サービスの利用が多い地域、介護サービス基盤が整備されている地域では介護保険料が高くなりやすい傾向があります。

 

例えば2024年〜2026年の第9期においては、全国で最も保険料が高い自治体と、最も低い自治体との間に約2.74倍も開きが生じています。

 

とはいえ、一概に保険料の高い地域・安い地域のどちらがいいという話ではありません。保険料が高くても、サービスが整備されていたり施設利用が多かったりするケースもあるので、保険料の金額だけでなく、提供されるサービス内容も含めて判断する必要があります。

同じ介護保険制度なのに住む場所で負担が異なる理由

質問

同じ制度なのに住む場所で負担が変わることについて、制度上どのような課題がありますか?

2つありまして、1つは「地域間における住民の公平性」が課題になってくると思われます。

 

この介護保険制度の負担といった公平性について、住民の方々がどう捉えるかによっても変わるかと思います。

 

もう1つは介護保険の「調整交付金制度(介護保険や国民健康保険などの社会保険制度において、市町村(保険者)ごとの財政状況や医療費水準の偏りを調整し、住民の保険料負担を公平に保つための制度)」がどこまで保険料の地域差を調整できているのかという問題です。調整交付金は国庫負担の一部を用いて、市町村ごとの後期高齢者割合や所得水準の違いによる財政差を調整する仕組みです。ただし、それによって保険料の地域差が完全に解消されるわけではありません。

 

こういった調整の仕組みが、果たして市町村にとって、また、被保険者のみなさんにとって十分なものとなっているかどうか、といった論点もあります。

 

介護保険制度は導入後も改正を重ねてきましたが、市町村を基本的な保険者とし、調整交付金によって地域差を調整するという基本的な構造は維持されてきました。今後、さらに地域差が広がる場合には、この構造そのものをどう評価するか、といった議論が浮上してくる可能性があると言えるでしょう。

公的介護保険だけで老後の介護は本当に安心できるのか?

石田准教授のインタビュー画像2

公的介護保険はどこまで保障してくれる制度なのか?

質問

公的介護保険は、そもそもどこまでを保障する制度なのでしょうか?

公的介護保険は基本的な介護サービスを対象としています。

 

そのため、先ほどの例で挙げましたが住居費や食費に関しては公的介護保険ではカバーされません。

 

また、在宅介護における住宅改修は、介護保険から住宅改修費が支給されますが、支給限度基準額は原則20万円です。それを上回る改修を行う場合には自己負担となるので、例えば、ご自身の住居の築年数が古く、バリアフリーなどに対応していない場合にはコストがかかる可能性があります。

 

元々バリアフリー住宅にお住まいの方でしたらそれほど費用はかからないのですが、古い住宅は改修費用の負担が大きくなる可能性もあります。

公的介護保険だけではカバーしきれない費用について

質問

実際に、公的介護保険だけではカバーしきれない費用にはどのようなものがありますか?

介護サービス費用については介護保険の給付対象となりますが、生活費・食費・居住費などは自己負担となります。


しかし、日常生活で「もう少し人の手を借りたい」と感じる場面まで含めると、いわゆる一般的な介護サービスだけではカバーしきれない部分が出てきます。自治体によっては、地域支援事業や独自事業により、生活支援、見守り、配食、介護予防などを行っている場合もあります。

超高齢社会で日本の社会保障制度は持続できるのか?

日本の社会保障制度は超高齢社会でも維持できるか

質問

日本の社会保障制度は、超高齢社会の中でも持続可能なのでしょうか?

ここについて、単に財源が足りる、あるいは財源が足りないといった視点だけで考えるのは難しいところです。

 

介護保険で言えば、市町村は、地域の介護ニーズやサービス基盤を踏まえながら、保険料をはじめとした財源の範囲の中で、負担と給付との組み合わせを考えていかなければなりません。さらに、その負担と給付のバランスが、どのくらいなら許容できるか、社会的にどう受け入れられるかといった観点が重要となります。

 

実は、第1期(2000〜2002年)では介護保険料の全国平均額が2,911円であったのに対し、第9期(2024〜2026年)では6,225円と上がっており、今後も増加の傾向が見込まれるとの予測もあります。

 

これは、給付ニーズの増加に伴って保険料も上昇している側面があるため、保険料上昇そのものを単純に否定できるわけではありません。「給付内容に対して負担が見合っていると感じられるか」という国民の納得感が、社会保険制度では非常に大切になってきます。

 

そのため、必要な人に必要なサービスが届いて、かつそれを支える側が納得感のある負担になっているかが、制度への信頼や持続可能性に関わってくるポイントになります。

今後は「給付削減」「保険料増加」「税負担増」のどれが進むか

質問

石田准教授は「公平な社会保障」とは、どのような状態だとお考えでしょうか?

私自身の考えを申し上げますと、個人の居住地や所得、家族構成など「偶然で決まるような要素」によって必要なサポートへのアクセスが左右されないことが一番重要だと思います。

 

民間保険は、個人が必要に応じて保障内容を選ぶ商品ですが、公的社会保険は社会的なリスクを共同で支える制度です。そのため、本人の居住地、家族構成といった個人の属性によって必要な支援へのアクセスが左右されないことが、公平な社会保障であると思います。

 

介護保険は、要介護認定または要支援認定を受けることでサービスを利用できる制度ですので、同じ所得水準であれば、同じような負担の下で、介護の必要度に応じたサービスを公平に受けられることが望ましい。こうした公平性を、従来の自治体の財政の視点ではなく、第1号被保険者(65歳以上)の負担と給付の対応という視点から捉え直すことが、私の研究で重要視しているポイントになります。

 

現実には保険料で言えば、地域によって2~3倍ほどの差もあるので、公平かどうかという点には議論の余地があると言えます。公平性を正面から捉えようとする研究についても、まだ十分な蓄積があるとは言えず、私自身もその一端を実証的に試みているところです。


個人的には、私自身も、行政の現場で、介護保険料や自己負担に関するご不満を聞く機会がございました。もちろん、それがどの程度一般化できるかは慎重に見る必要がありますが、声を上げられていない方々も含め、社会保障全般として、少なくとも制度への納得感は、制度の持続可能性を考えるうえで極めて重要だと考えています。

世代間公平と地域間公平はどちらを優先すべきか

質問

世代間公平と地域間公平は、どちらを優先すべきだと思われますか?

これらの要素は独立しているので優先順位をつけるのは難しいと考えています。

 

世代間公平は時間軸の問題なのですが、将来世代の若い方は現在の制度設計に十分に関与できてきたわけではない一方で、将来その制度の負担や給付の影響を受けることになります。そのため、将来の給付水準や負担水準をどう見通していくかが重要になります。

 

一方で世代間公平に関して突き詰めて考えると、例えば、介護保険制度の導入以前の問題と以後の問題における介護サービスへのアクセスの差は大きいので、こういったところに制度設計の難しさがあると思います。

 

そして、地域間公平に関しては現在進行形の問題なので、世代間公平とは若干性質が違うと言えます。

 

地域間公平は、先ほど触れた調整交付金制度によって、市町村間の格差は一定程度、緩和されています。ただし、それで完全に調整できているかについては、なお、議論の余地があります。

 

調整交付金は財政面での地域差の緩和を図る制度として機能していますが、その財源は最終的に国民全体の負担で賄われるため、これ以上調整の幅を広げることに納得感を得られるのかという制度設計上の課題が残ります。

 

そして、こうした財政調整をもってしても、被保険者一人ひとりにとって負担と給付が見合っているかという意味での公平性は、なお課題として残されています。住む場所は、本人の自由な選択だけで決まるものではなく、家族、仕事、地域とのつながりなどに強く制約されます。そうした居住地によって保険料負担が大きく変わる現状をどう捉えるか。これこそが、地域差が広がりつつあるこれからの時代の重要な論点だと考えています。

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