会計・金融教育は人生の選択をどう変えるのか
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今回は、昭和女子大学 グローバルビジネス学部 会計ファイナンス学科 現代ビジネス研究所にご在籍で、財務管理論、パーソナルファイナンスなどを研究されている関 憲治教授に、マネーキャリア編集部が独自インタビューを行いました。

この記事の目次

関教授のプロフィール

学歴

1986/04~1990/03 国際基督教大学 教養学部 教育学科 卒業 教養学士

1996/04~1998/03 慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 経営管理専攻 修士課程 修了 修士 (経営学)

2007/10~2012/03 東北大学大学院 経済学研究科 経済経営学専攻 博士課程 修了 博士 (経営学)


職歴

2019/04/01 ~ 昭和女子大学 グローバルビジネス学部 会計ファイナンス学科 教授

2018/04/01 ~ 2019/03/31 昭和女子大学 グローバルビジネス学部 会計ファイナンス学科 准教授


著書・論文歴

2026/03/31 論文 中高生向け金融教育プログラムの作成 -学習指導要領と金融リテラシー・マップに基づく実践的アプローチー 商業教育論集第36集 (共著)

2025/04/30 著書(翻訳・分担) 『大恐慌の子どもたち』親世代のライフコース: 20世紀を生きたアメリカ人の家族・ジェンダー人間発達

2025/03/31 論文 運転資本の再検討 昭和女子大学現代ビジネス研究所2024年度紀要 (共著)

2025/03/31 論文 女子大学の会計ファイナンス学科における簿記・会計教育の現状と課題-昭和女子大学会計ファイナンス学科の事例よりー 商業教育論集第35集,69-73頁 (単著)

2021/03 その他 ビジネス実務をふまえた簿記会計教育の特性の一考察 -昭和女子大学及び京都女子大学の取組みの現状と課題- ビジネス実務論集 (39),77-84頁 (共著)


引用:教員紹介・研究業績 


会計教育は家計や投資の意思決定にどのような影響を与えるのか


関教授のインタビュー画像1

会計教育は家計や投資判断にどのような影響を与えるのか

質問
Q1. 会計やファイナンス教育は、一般の生活者が自分の家計や投資判断を行う際にどのような影響を与えるとお考えですか? 

一般的には、会計やファイナンスについて学ぶことで、投資に関係する考え方や知識を身につけることができ、より自分に合った家計や投資の判断をできるようになると思います。


例えば、財務分析の基礎となる簿記・会計を学ぶことで、自分自身で投資先企業のビジネスモデルや財務内容を理解して判断できたり、ポートフォリオの考え方を学ぶことで長期的な分散投資などを行ったりができるようになると思われます。 

学生時代に学んだ会計知識は社会でどう活きるのか

質問
Q2. 学生時代に会計や財務を学んだ経験が、卒業後の経済的意思決定にどのように役立っていると感じていますか? 

まず、キャリア(仕事)上の知識・スキルとお金(マネー)に関する考え方や知識(ファイナンシャルリテラシー)は人生の両輪であると考えています。


生きていく上では意思決定が必要な場面が多く訪れますので、会計やファイナンス(財務)の考え方や知識を身につけることで、自分自身の生き方(広い意味でのキャリア=ライフキャリア)を自分自身で決めることができると思います。


例えば、経理部(課)や財務部(課)、もしくは金融機関等で働く場合には会計や財務を学んだ経験がもちろん仕事上のキャリアで役立つと思いますが、もう少し幅を広げて考えると、卒業する前に就職先を選ぶときにも、企業のビジネスモデルや財務内容等の分析を行うことで、就職先の候補企業への理解が深まると思います。


必ずしも全員が転職するとは言えないのですが、上記は将来的に転職の意思決定をする場合にも役立ちます。


また、働いて得たお金を自分自身の人的資産に投資する(今の仕事に役立つ知識・スキルを身につけるための投資、リスキリングのための投資、長期的にやりたいことを実現するための投資(大学院進学なども含む))をするのかという意思決定にも役立つと思います。


他にも、NISAやiDeCo等を活用して金融資産に投資を行うのか、実物資産に投資を行うのか、金融資産や実物資産に投資するとしたら具体的に何にどのように投資すればよいのか、などを自分自身で決めることができるのではないかと思っています。


さらに、自宅を買うか賃貸に住み続けるか(実家に住み続けるという選択肢もあるかもしれませんが)という永遠のテーマを考える際にも、会計やファイナンスの考え方が役立つと思います。仕事や転職などを優先してキャリアを築くのであれば、必ずしも1箇所に定着しない選択肢もあると思いますので、自分自身の生き方に応じて自分で考えて意思決定できるようになると良いと思います。

財務リテラシーを高めるために教育現場で重視すべき要素

質問
Q3. 財務リテラシーを向上させるために、教育現場で重視すべき要素(例:簿記、FP的思考など)は何だとお考えですか? 

簿記・会計やファイナンス、特にパーソナルファイナンスの考え方、知識・スキルを身につけることは必要だと思います。


ただ、その過程で、自分自身のお金に対する価値観や幸せに暮らす上でのお金との付き合い方について、考えてみる機会を設ける必要があると思います。


それまでの生活環境によってもお金への考え方は異なりますし、自分が目指す生き方によっても異なりますが、知識やスキルのみでは、お金に振り回されてしまうこともあるのではないかと思いますので、「お金をうまく使いこなす力について考える」という機会があることが重要かなと個人的には考えています。


また、お金は生きていく上で絶対に必要なのですが、とはいえお金は便利な道具に過ぎません。 当たり前のことですが、お金で買えるものは多いですが、買えないものもあります(かつて流れていたどこかのクレジットカード会社のCMのような・・・)。


いろいろな経験をする中で考え方は変わっていくとは思うのですが、それでも中学・高校のようななるべく早い段階で、自分自身にとってのお金の意味について、真剣に考える機会を得ておくことが重要だと思います。 

会計理解は支出管理や資産形成などの行動変容につながるのか

質問
Q4. 会計の理解と行動変容(支出管理・資産形成・借入判断等)の関係を、教育現場の事例からどのように見ていますか? 

実際に卒業生を追跡した調査はしていないので、断言することは難しいのですが、基本的には簿記や会計はお金の流れを記録するスキル・考え方・知識なので、簿記・会計を学ぶことで、その意義を理解できるかもしれません。


そうすると、自分自身のお金を管理できるようになることにもつながるでしょう。


人によっては細かく管理したい人もいれば、家計簿などをつけずにお金の管理をざっくりと行う人もいますが、それでもその人なりに管理できるということが重要かとは思います。


今の自分にとって何が必要で、何が不要かを考えて、自分が必要だと思っていることには積極的に投資するといった行動が、簿記や会計を学ぶことでできるようになっていくのではないでしょうか。 

中高生・大学生への金融教育プロジェクトの成果

質問
Q5. 中高生や大学生に対して行っている金融教育プロジェクトの成果(意思決定能力への影響)はどのように評価されていますか? 

これについては、長期的に考える必要があると思っています。


ただ、私自身も含め、(実務経験がある)大学教員が、まったく中立的な立場から金融教育に取り組むことには大きな意味があると思っています。


すでに指摘されていることではありますが、金融機関が行う金融教育には、意識的か無意識的かは別にして、将来的な顧客の育成みたいな視点がどうしても入らざるを得ないと思います。


また、政府としても「貯蓄から投資へ」といった方針を推進しており、「投資しなければいけない」のような聞こえ方になってしまう可能性もあるでしょう。


しかし、個人的には金融資産などに投資しても良いし、しなくてもよい、預貯金のままでも一向に構わないと思います。


ただし、正確な知識を持たずして行動しない(預貯金のままにしておく)、あるいは、「よくわからないけれども、とにかく言われたから投資しなきゃいけないと思ってやり続ける」必要はないと考えています。


正確な知識を持って自分自身で判断ができる、もしくは相談する際にかかるバイアス(誰に聞くかによってどのようなバイアスがかかるか)を理解した上で必要に応じて人に相談し、最終的には自分で意思決定できるようになってくれればよいと思っています。 

パーソナルファイナンス能力はキャリア形成にどのような影響を与えるのか


関教授のインタビュー2

パーソナルファイナンス能力はキャリア選択にどう影響するのか

質問
Q6. 個人のパーソナルファイナンス能力が、キャリア選択や職業形成にどのような影響を与えるとお考えですか? 

いわゆる富裕層のご子息・ご令嬢で、自分自身が働かなくても十分な資産を引き継げる場合は別にしても(とはいえ、その場合にも資産承継、場合によっては事業承継などのパーソナルファイナンスに関する考え方・知識が必要ですが)、一般的には自分自身で働いて得たお金を自分自身の人的資産や金融資産などに投資していくことになると思います。


この場合、若いころには人的資産は多いものの金融資産や実物資産は少なくて、年齢を経ていくにつれて、人的資産は減っていき、金融資産や実物資産が増えていくと考えられます。


そして、人的資産をその人が働いて得るキャッシュフローの割引現在価値の合計と考えれば、人的資産の評価額はどのような仕事でどのように働くかに大きく依存します。


好きなことややりたいことを仕事にすることはもちろん良いことです(私もそのように生きてきました)が、その場合に「経済面でどのような生活になるのか」を想定して、その生活を続ける上で将来的に必要なお金をどのように準備するのか、などを自分で考えられるようになるのではないかと思います。


結果的に、個人のパーソナルファイナンス能力は、キャリア選択や職業選択における自由度を高めるのではないでしょうか。


このように考えると、パーソナルファイナンスの考え方、知識やスキルが、狭い意味でのキ ャリア(仕事中心のキャリア)や職業選択と密接に結びついていると思います。 

若い世代が金融知識の不足を実感する場面とは

質問
Q7. 若い世代がキャリア形成の過程でパーソナルファイナンスの知識不足を実感する場面として、どのようなケースがあるとお感じでしょうか? 

仕事を選ぶ際にも、投資を考える際にも「楽をして短期間で儲けたい」と考えたり、現時点のメリット・デメリットばかりを考えたりして、長期的な視点に欠けるケースなどがあるように感じています。


また、就職活動等で「最適解」が欲しいと言って行動できなくなる学生もたまにいますが、そもそも将来は不確実なので、確定した最適解などはなく、さまざまなリスクを想定した上での意思決定が必要なのだと思いますが、そのあたりもファイナンスを学べば理解できるように思います。


基本的に不確実性が高い中でリスクをどうコントロールしていくかということは、金融資産だけではなくてキャリア形成の意味でも考える必要がありますが、この視点が欠けていると、かなり短期的な視点で意思決定をしかねない、という状況にもなってしまうと思っています。


キャリアの視点でも1から10までを全て計画して、計画通りにキャリアを形成することは今の時代はなかなか難しいと思います。とくに、今一番良いと言われている仕事であっても10年後にはどうなっているか分からない、ということを考えると、リスク(不確実性の大きさ)との距離感の問題なのかもしれません。 

金融リテラシーの差はキャリア形成にどのような違いを生むのか

質問
Q8. パーソナルファイナンス能力が高い人と低い人のキャリア形成に見られる違いを、これまでの研究や教育現場の経験からどのように捉えていますか? 

パーソナルファイナンス能力が高い人は、自分自身のキャリアを投資の一環として考えることができる、もしくは考えていると思われます。


当然、キャリアには不確定要素を含みますが、人的資産を自分自身が将来的に稼ぎ出すキャッシュフローの現在価値の合計として捉えて、ポートフォリオの一環として人的資産を組み込むと考えることができれば、キャリア形成もリスク・リターンを中長期的に考えることができ、人によっては積極的なキャリア形成を図ろうと考えることができるのかもしれません。


とはいえ、もちろん人生の目的はお金だけでないので、人生における究極のリターンは、その人自身の幸せだとは思います。したがって、自分自身(あるいは家族や友人関係を含んだ)幸せを最大化するために、何にどのように投資するかを考えていくことになると思います。


つまり、投資の考え方を自分自身の生き方やキャリア形成にも組み込むことができるようになると思っています。


また、過度に将来を悲観しなくても済むようになるかもしれません。そもそも将来は不確実である(一定のリスクはある)ことを前提に考えれば、「確定した未来を前提にしてしまう」こともなくなるので、あまり金銭面で悲観的にならずにいろいろなことにチャレンジできると考えています。


完全にできるかできないかは別として、不確実性(リスク)を過度に恐れることなく人的資産を含めた資産全体としてコントロールすれば良いということだと思います。


例えば、非常に安定的な仕事についている人の場合、その人の収入を、確定利回りの長期の債券から得る利息(のようなもの)として捉えるならば、金融資産としては、比較的リスクの高い株式などに投資をすると、人的資産を含めた資産全体のリスクとリターンをコントロールできるかもしれません。


逆に世界の経済動向などで収入が大きく変動したり、雇用が流動的になったりするような仕事をしている人の場合には、資産運用についてリスクを押さえることで、人的資産を含めた望ましいポートフォリオを考えられると思います。 

会計・財務知識はキャリアの選択肢を広げるのか

質問
Q9. 会計・財務の知識がキャリアパスの形成や労働市場での選択肢拡大に寄与する具体的な仕組みや例はありますか? 

例えば、経理の仕事をしようと思ったら、一般的には日商簿記2級以上か経理経験者が応募条件になることが多いと思います。


とすると、経理分野でのキャリアパスを形成するためには、学生時代に簿記・会計を学んでおくことが重要だと考えています。


また、金融機関で働きたいと思う場合には、入社後に研修等で業務に必要な資格(証券外務員資格など)の勉強をすることもできますが、学生時代に会計やファイナンスを勉強しておくと、自分の労働市場における選択肢が拡大すると思います。 

金融商品が多様化する時代における金融教育の役割

質問
Q10. 今日のように金融商品が多様化した環境で、パーソナルファイナンス教育が社会全体の意思決定力に与える影響はどのように変わっているでしょうか? 

投資は自己責任で行うことが前提ですので、自分が理解できない金融商品には絶対に投資をしないことが重要ですし、金融機関は顧客が理解できていない金融商品をその顧客に売ることはできないと思います。


このように考えると、パーソナルファイナンス教育により理解できる金融商品が増えれば、(個人としての)投資の選択肢が増えることになると思いますし、金融機関としても、金融商品を提供しやすくなっていくと思われます。


この結果、社会全体として金融商品の流通が活発になるでしょう。すると、資金調達をする企業側にしても、選択肢が増えてくると思うので、社会全体としての意思決定力も上がっていくと予想されます。 

キャリア教育や組織教育の中でパーソナルファイナンスはどう位置づけるべきか

質問
Q11. 会社や組織、あるいはキャリア教育の現場において、パーソナルファイナンスの学習をどのように位置付けるべきだとお考えでしょうか? 

教育現場では「担当する教員がパーソナルファイナンス教育を受けていないので、そもそも 何を教えれば良いかが分からない」ということが今の実情だと思います。


パーソナルファイナンスを資産運用面のみに限定せず、自分自身のライフキャリアを中長期的に実現するために必要な考え方、知識・スキルを身につけるための学習として位置付けることが望ましいと思っています。


このような位置付けが、教育現場として受け入れられやすいとも考えております。 先ほども触れましたが、今日は金融商品が複雑化してきていますので、「自分で決めていかなければならない機会」が増えると思うんですね。


したがって、自分で理解するために、そしてその知識を有効に活用できるように、やはり早い時期から、キャリアと同時に考えていく必要があるかなと思います。 

金融教育をいつ頃から始めるのが望ましいのか

質問
Q12. 海外では幼児期や小学校から金融教育を行う例もあります。日本でも、より早い段階から金融教育を行うべきだとお考えでしょうか? 

金融教育をどの段階から行うべきかについては、教育制度の枠組みや現場での実施可能性なども考える必要があり、一概には言えないと思います。


しかし、個人的には、必ずしも幼稚園や小学校の段階から本格的な金融教育を行う必要はないのではないかと考えています。むしろ、自分でお金を使う機会が増え、現実的にお金との関わりを持ち始める中学から高校くらいの時期が、金融教育を考える一つのタイミングになるのではないでしょうか。


その際に重要なのは、金融商品の知識を学ぶことだけではありません。むしろ、自分の将来のキャリアや生き方と合わせて、お金との付き合い方を考えることだと思います。


例えば、高校や大学の進路をどうするか、将来どのような仕事をしたいのかといった選択は、結果として将来の収入や生活にも関わってきます。そうした進路選択とあわせて、お金の使い方や考え方を学んでいくことが望ましいのではないでしょうか。


日本では長い間、教育現場でお金の話をすることがどこか避けられてきた面もあります。しかし近年は金融教育の重要性が広く認識されるようになってきました。


早い段階でお金についての基本的な考え方を身につけておくことは、将来の意思決定にも役立つだけでなく、投資詐欺や闇バイトといった問題から自分自身を守る力にもつながると考えています。