今回は、埼玉学園大学 経済経営学部 経済経営学科にご在籍で、コーポレート・ガバナンス/金融システム/ESGなどを研究されている花崎 正晴教授に、マネーキャリア編集部が独自インタビューを行いました。
この記事の目次
花崎教授のプロフィール
<経歴>
【最終学歴】
早稲田大学政治経済学部経済学科 卒業 博士(経済学) 早稲田大学
【受賞】
『企業金融とコーポレート・ガバナンス』(東京大学出版会)にて第50回エコノミスト賞受賞 2010年
【主な職歴】
在パリOECD経済統計局、在米ブルッキングス研究所、一橋大学経済研究所助教授、日本政策投資銀行設備投資研究所長、一橋大学大学院経営管理研究科教授、この間に青山学院大学、東京大学、早稲田大学等で非常勤講師を務める。2020年4月より現職および一橋大学名誉教授。
<研究・専攻分野>
コーポレート・ファイナンス、コーポレート・ガバナンス、金融システム、ESG
<主な著書・論文>
『変貌するコーポレート・ガバナンス―企業行動のグローバル化、中国、ESG―』(花崎正晴[編著]),勁草書房,2019年
Corporate Governance and Corporate Behavior: The Consequences of Stock Options and Corporate Diversification,(単著)Springer, 2016.
『コーポレート・ガバナンス』(単著),岩波新書,2014年
『日本経済 変革期の金融と企業行動』(堀内昭義・花崎正晴・中村純一[編]),東京大学出版会,2014年
『金融システムと金融規制の経済分析』(花崎正晴・大瀧雅之・随清遠[編]),勁草書房,2013年
『東日本大震災 復興への提言』(伊藤滋・奥野正寛・大西隆・花崎正晴[編]),東京大学出版会,2011年
『企業金融とコーポレート・ガバナンス-情報と制度からのアプローチ-』(単著),東京大学出版会,2008年
『経済制度の生成と設計』(鈴村興太郎・長岡貞男・花崎正晴[編]),東京大学出版会,2006年
他多数
引用:埼玉学園大学 教員紹介
気候変動は家計にどのような影響を与えるのか

光熱費・食費・保険料への影響
気候変動というのはグローバルな課題である一方で、私たち個人個人の生活にもさまざまな影響が出てきます。
気候変動の問題は「地球が温暖化するということ」と「異常気象が頻発すること」であり、異常気象が起こるということは、自然災害の発生頻度が非常に高くなることを指します。
自然災害が頻発するということは、それだけ火災保険の保険金の支払いが増える。そうすると当然のことながら保険料自体もアップしていく状況になってしまいます。これがまず家計への保険という面での直接的な影響と言えます。
また、気候変動の問題は温室効果ガスが大気中に蓄積することで起こりますが、化石燃料を使うとCO2が排出されて温室効果ガスになります。
これが地球温暖化につながってしまうので、化石燃料をなるべく使わないようにして再生可能エネルギーを使っていくことが中長期的に非常に重要になってくるわけです。
そこで、気候変動の問題を何とか緩和していくためには、「再生可能エネルギー」を利用していく必要があるのですが、これには太陽光発電や風力発電などがありますが、再生可能エネルギーを生み出すのにもコストが多くかかります。
そのため、電力料金が上がってくることも、中長期的な家計への直接的負担になってきます。さらに、電力価格が上がるということは、さまざまなものの製造・物流コストが当然上がってきます。 そうなると、必然的に物価自体も上がってくるということになるので、家計にある程度の影響が出るのは避けて通れないと言えるでしょう。
地球全体という大きな目線で見ると、人間が普通に生活していくこと自体が難しくなってきており、このまま何もしていなければ、今後もより住みにくくなりますし、若い方が老後を迎えるぐらいになると、本当に悲惨な地球環境になってしまいます。
したがって、本問題の解決は避けて通れないので、コストがかかったとしてもある程度許容して、その上で対策を進めていくことが今後とも重要であると思います。
異常気象がもたらす家計リスクと備え
上述の回答と少し重複する箇所もございますが、気候変動の問題を、いかに深刻化させないための取り組みを個人だけではなく企業、あるいは国や自治体レベルも含めていろいろな経済主体が取り組むことに尽きます。
先程の例のように、「温室効果ガスの排出を削減するためにはどうしたらいいか」ということを個人が考えるのが重要であると思います。
例えば、節電、電力の使用を可能な限り節約するということももちろん、ガソリン車→電気自動車への転換、太陽光パネルの設置など、できる範囲で個人が意識して行っていく、といったことが生活者のレベルでは非常に重要となってくると思います。
ESG投資と資産形成の関係
ESG投資は一時的な流行か、それとも長期トレンドか
ESG投資(従来の財務情報(売上・利益など)に加え、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の3要素を考慮して投資先を選ぶ手法)が「流行」か「長期的な流れ」かは非常に重要な問題です。
世界的に見て今どういうことが起きてるかというと、アメリカのトランプ大統領はそもそも気候変動の問題自体を否定しています。「そのような問題は起きてない」とまで言い切っていますが、そのような人にとってはESG投資は意味がないということになってしまいます。
ところが、実は気候変動の問題は科学的根拠、裏付けを持った真実であり、上記のようにトランプ大統領はそれを否定しているのですが、世界的にきちんと認識してやっていけるかどうかというのは非常に重要な問題です。
気候変動の問題を無視してしまうと、中長期的には取り返しのつかないことにもなりかねないので、ESG投資をはじめとした環境問題にも着目し、個人の投資家としても取り組んでいくべきであると思います。
もちろん、全ての投資が収益性の面でうまくいくとは断言できないのですが、例えばNISAなどで、ESGをテーマとした投資信託も数多くありますので、ESG投資を通して資産形成にも役立てる視点を、個人レベルでも持つことが大切になると思います。
ESG投資は年金の安定性にどう影響するのか
日本ではGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)という、公的年金で集まったお金を資本市場で運用するような機関があります。
この機関の運用額が今では300兆円ほどになっており、このGPIFは10年近く前から ESG投資を積極的に実施しています。その結果、GPIFの投資収益は相当な額がプラスになっており、その分年金の原資が増えているのです。
日本だけではなくヨーロッパなどでもこの動きがあるのですが、このような「年金の運用機関がESG投資をやっている」という流れが定着すれば、ESG投資が年金の安定性にもつながるのではないかと思います。
ESG投資と企業の関係性とは

2050年ネットゼロが企業に与える影響
パリ協定での2050年ネットゼロというのは、「2050年までに温室効果ガスの実質的な排出をゼロにする」という世界的な目標を指します。温室効果ガスは、森林が一部は吸収してくれることを考えると、吸収できる範囲で排出するのであれば理論上は増えないことになります。
しかし、現在はもちろん吸収よりも排出の方が多いので、温室効果ガスが増えています。
そのため、国際的な公約である2050年ネットゼロを、日本の政府も推進しようという立場ですので、国内の各企業にもこの動きが求められているわけです。したがって、先ほどの話にも関連しますが、いわゆる脱炭素、積極的にCO2の排出をなるべく抑えようと取り組んでいる企業は増えています。
このような方向性で各企業が取り組むことによって、投資家も環境への取り組みを推進している企業を応援しようということでESG投資が増加していく、といった良い流れが定着していく、ということを押さえていただければ良いのではないかと思います。
企業の役割はどのように変わったのか
今、気候変動への取り組みを積極的にしているような会社も増えていますが、ポイントとして、統合報告書というものがあります。
実は、企業が今まで開示していたのは、主に「どのぐらい売り上げがあったか」「どれだけ利益が出たか」などの財務パフォーマンスを開示していたのですが、統合報告書は財務パフォーマンスだけではなくてESGを代表とした非財務的な要素も開示しているものになり、直近5、6年でその動きが強まっています。
統合報告書を発刊している企業は、一般的に気候変動への取り組みに積極的な企業ですし、統合報告書は上場企業の場合はホームページで入手できますし、企業の取り組みに関してさまざまなことが分かります。
そこで、「この企業は気候変動の問題に積極的である」ということを確認し、それで投資をするというのが一つの有力な方法であると思います。
ESG投資と投資のリターンについて
個人の投資家を含め、世界中の機関投資家がESGに関心を持って、気候変動の問題を長期的に解決しようという意識を持てば、ESGに対しての投資が活発化すると思います。
そうすると、長期投資という観点で ESGのリターンは高まりますし、リスクもマーケット全体に比べればそんなに高くないという形になるとは思います。
ただし、影響力を持つ人が「気候変動の問題はない、存在しない」といった言及をし、それを信じる人が増えてしまうと、ESG投資のリターンは下がってしまいます。個人的には、例えばトランプ大統領のような方が上記のような言及をしても、アメリカの有力な投資家は気候変動の問題について関心を失っているわけではないと思います。
そのため、ESG投資はリスクとリターンの両方から見ても、長期的に有力な投資先であると思っています
投資判断と消費行動への落とし込み
投資初心者がチェックすべき企業のポイント
まず、ミルトン・フリードマンとは、1976年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学の有名な20世紀を代表する経済学者の一人です。
ミルトン・フリードマンは「利益第一主義」の考え方を主張しており、影響力も大きかったため、アメリカでは企業は利益をあげて株主に還元すればいいという考え方が広まりました。
20世紀まではこの考え方が浸透していたのですが、21世紀になるとアメリカでもいろいろな問題が発生していきます。そのうちの一つに、今回のテーマである「気候変動の問題の深刻化」があります。
そこで、21世紀から「企業が利益を追い求めているだけでは駄目である」という意識に変わっていきます。 ヨーロッパや日本そしてアメリカの企業などでも、幅広いステークホルダーの利害を考慮するといったことが企業の経営にとって重要であるという考え方にシフトしています。ここでのステークホルダーは従業員や株主、取引先や地域の住民も含みます。
それから気候変動の問題ということに関して言えば、CO2の排出によって影響を受けるのは、地球の住民全員です。さらに、現存する人類や動植物などだけではなくて、将来これから生まれてくる世代にも影響が及ぶわけですから、地球上に存在する全ての生き物がステークホルダーであるということまで考えて企業経営をしていくことが、今の時代に求められる企業の大きな役割と言えます。
上述の文脈で言えば、気候変動の問題から少し離れますが、例えば今、賃上げについても日本でも重要であるという認識が広まっています。フリードマンの時代は株主に対して利益を上げることが重要だと考えられていたのですが、現在では従業員が企業にとって重要なステークホルダーという認識なのです(もちろん株主に対しての利益を軽視するということではない)。
アメリカやヨーロッパでは賃上げに対して積極的であり、従業員の一人当たりの所得が年々上がってきているのは、賃上げが大きな要因です。日本では、デフレの時代には賃上げはあまり考慮されていなかったのですが、従業員は消費者でもあるわけですから、従業員の賃上げは、景気の面でもこれまで以上に重要視される時代になってきたと言えます。
環境配慮型の消費は合理的な選択になり得るのか
まさに環境を意識して商品や企業を選択していくという動きが強まれば、企業としても環境問題をより重視せざるを得ない。ということは気候変動の問題が緩和していける可能性がより高まりますから、将来的に非常に合理的な選択になると思います。
だから逆に言えば、若者世代が環境問題に意識が向かないと、気候変動の問題はより悪化しますし、今までのように普通に快適に暮らすこと自体ができなくなるような事態が、顕在化してきてしまいます。
そのため、環境に配慮した消費行動は極めて重要であると私自身は思っています。環境を意識した商品はそうでない商品と比べて多少高いのですが、長期的に見た環境問題のことを考えると、環境を意識した商品や企業を選ぶことが、若者世代に非常に望まれていることだと思います。
一般家庭が今日からできるアクションとは
重複するかもしれませんが、気候変動やESGの問題に積極的に取り組んでいる会社に投資するなどが挙げられます。企業によっては取り組みにある程度差がありますから、先程の統合報告書の確認なども取り組んでいるかどうかの判断をするのに有効です。
中には統合報告書を発刊してない企業もありますので、そのような企業では環境問題への取り組みが薄い、といった可能性があります。
また、電力会社によっても再生可能エネルギーに積極的に取り組んでいる企業もありますから、そういった企業を選ぶ等、いろいろな業種で気候変動やESGの問題に積極的に取り組んでいるような企業を見極めて投資する、そういったことが、個人のレベルでもできるといいのではないかなと思います。