今回は、駒澤大学 経済学部 商学科にご在籍で、人文・社会 / 理論経済学 / 消費経済論などを研究されている姉歯 暁教授に、マネーキャリア編集部が独自インタビューを行いました。
この記事の目次
姉歯教授のプロフィール
経歴
2007年4月 - 現在駒澤大学, 経済学部, 教授
2020年9月 - 2022年3月ルンド 大学, 社会学部, 在外研究員
2011年9月 - 2012年3月カリフォルニア大学バークレイ校, 地理学部, 客員研究員
2011年4月 - 2011年8月エセックス大学社会学部, 社会学部, 客員研究員
2001年 - 2007年大妻女子大学社会情報学部 助教授
1996年4月 - 2001年3月日本大学, 経済科学研究所, 客員研究員
1998年 - 2001年県立新潟女子短期大学生活科学科生活福祉専攻 助教授
1997年9月 - 1998年8月エセックス大学, 社会学部, 客員研究員
1992年4月 - 1998年3月長野大学, 産業社会学部, 非常勤講師
1993年 - 1997年県立新潟女子短期大学生活科学科生活福祉専攻 講師
1992年4月 - 1993年3月独立行政法人日本学術振興会特別研究員PD, 特別研究員
1991年4月 - 1992年3月独立行政法人日本学術振興会特別研究員DC
学歴
- 1992年國學院大學, 経済学研究科, 経済学
- 1992年國學院大學
- 1983年東京経済大学, 経済学部, 経済
- 1983年東京経済大学
論文
物価上昇と国民生活 : 「消費のための共同社会的一般条件」の解体とその影響—Price Fluctuations and Their Impact on Workers : "General Conditions of Consumption" in the Pandemic 姉歯, 曉, アネハ, アキ, Aneha, Aki 駒沢大学経済学論集 55(2・3・4) 1-20 2024年2月
「スウェーデン」における右派政党躍進—特集 『ウクライナ戦争』と世界経済・国際秩序のゆくえ 姉歯 曉 経済科学通信 = Letters of economic science : 働きつつ学ぶ権利を担う経済科学の総合雑誌 / 基礎経済科学研究所『経済科学通信』編集局 編 (157) 36-38 2023年6月
「福祉大国」スウェーデンの今 姉歯 曉 雑誌「経済」 (324) 100-111 2022年9月
スウェーデンにおける農村ジェンダーと新自由主義 姉歯曉 農業・農協問題研究所報「農業・農協問題研究」 (78) 2-16 2022年7月
スウェーデンにおける新型コロナをめぐる状況 姉歯 曉 基礎経済科学研究所編「経済科学通信」 (154) 11-16 2021年12月
他多数
書籍等出版物
農家女性の戦後史 日本農業新聞「女の階段」の五十年 姉歯 曉 こぶし書房 2018年8月 (ISBN: 9784875593416)
「五泉市食育推進調査」報告書 姉歯 暁, 駒澤大学経済学部姉歯研究室 下越農民会館 2016年 マルクス経済学と現代資本主義 姉歯 曉 (担当:分担執筆) 桜井書店 2015年7月
ジェンダーで学ぶ生活経済論 : 現代の福祉社会を主体的に生きるために 伊藤 純, 斎藤 悦子, 粕谷 美砂子, 姉歯 暁, 天野 晴子, 宮坂 順子, 松葉口 玲子 ミネルヴァ書房 2015年 (ISBN: 9784623073542)
豊かさという幻想「消費社会」論批判 姉歯 暁 桜井書店 2013年6月
他多数
引用:researchmap
消費社会の変化と家計の意思決定

物価上昇と教育費増加で変わる家計管理の実態
皆さんご存じの通り物価が上がっていて、消費支出の最大部分が食費ですが、その値上げが家計に影響を与えていることがわかっています。
総務省の家計調査でも、食費、光熱費、ガソリン代の3大要素が特に家計を圧迫していると感じる消費者が多くなっているとの結果が出ています。
一方で、教育費というのは削りたくないところです。もちろん、本当であれば、食費も削りたくないのですが、教育費と比べると「同じ食材なら安い食材へ」「外食の回数を減らす」など、ある程度対応が可能な柔軟性を持っています。
ですから、実際には食費を切り詰めるという形で、この物価上昇に対して対抗するという意思決定をする人が多いのです。もう一つ、食費への支出自体が減っている背景には、「学校給食費を無償に」という要求に行政が応える形で学校給食の無償化がすでに始まっている自治体が増えていることも忘れてはならないと思います。学校給食費は「食費―外食」という項目に含まれるので、無償給食は家計にプラスの効果を持つことになります。
もちろん、家計防衛のために外食の回数も減らしたり、本来削ると生命に関わる光熱費についてもできるだけガスや電気を使わないようにするという人も増えています。そういう意味ではこの物価高とそれに追いついていかない給与、年金水準や雇用不安定が続く中で、生活を支える生活必需的、言葉を変えればインフラ的消費に手をつけざるを得ない、という家計が多くなっているのが実際のところです。
一方、所得階層を10分位に分けてみると、低所得者層と中間所得者層の第2、第4分位では実収入が減少しており、そのほかの階層では若干増えていますが、何より、第9・第10分位に位置する高所得者層では大きく所得が増えています。保有している株式や他の資産価値が高まっていたり、十分な退職金を持っていて、住宅ローンに苦しめられてもいないような恵まれた人たちです。
このような人たちの階層では、それほど消費行動は変わっていません。むしろレジャーや旅行などにお金をかける人たちも減ってはいません。 物価高の影響は生活必需品が主に強く出がちなので、必需品を多く消費しなければならない低所得者、中間所得者層の世帯というのは、レジャーや旅行の費用、外食を含む食費を減らすという意思決定をせざるを得ないという状況となっています。
SNS・口コミ時代に変化する消費判断のあり方
若年層と高齢者層でも違いが見られまして、高齢者層では、インターネットの利用度がそれ以外の年齢層より低いので、インターネットでの口コミ閲覧やオンライン消費、電子商取引というものへの参加は他の年齢層ほど進んではおりません。
そのことを前提としつつも、消費者意識基本調査では、大体7割くらいの消費者が口コミを参考にするとの結果も出ています。
オンラインでの購買は実際に商品を手に取ることができませんし、初めて買うものについては色々な情報を検索しますね。ところが、一番気持ちが動くのは総合評価ではなくて、 1件、2件の口コミという消費者が多くなっているのが実情なのです。
これはある意味、危険性もはらんでいます。消費者庁の調査でも、オンラインでの購買が増えてはいるものの、 例えば「総合評価は極めて良いが、1〜2件の口コミで悪いものがあれば買わない」という選択をする人が6割ほどいます。
そうなると、本当は良い商品であってもたった1、2件の悪い口コミに左右されたり、逆にSNSや口コミの情報量が多すぎて、判断するのが面倒になり、結局「買わない」という選択に至ってしまうといった消費者もいます。
SNSや口コミを含む情報が大量に消費者の目に入ることが、ダイレクトに消費者の判断力を研ぎ澄ませることにもつながりませんし、逆に情報過多で選べなくなってしまう可能性もあるわけです。そのあたりを業界として、行政としてどうしていくかというところが、これからの消費判断の行方に大きな影響を持つと思っています。
そもそも、消費者は「知る権利」「守られる権利」「補償を受ける権利」などを獲得するために様々な運動を続けてきました。しかし、実際には消費者の「知る権利」「守られる権利」「補償を受ける権利」を阻害している現状は実際に存在しています。これらの問題を解決するために、企業や公共の場でも、SNSや口コミの内容も含めて審査過程や経緯が明確な基準を持って精査する監査機関や、何かあればその商品は市場から退出してもらう仕組みをさらに堅固にすることが必要になってくると考えています。
一方で、今日では逆に店舗での購入が増加傾向にあるという調査結果もあります。これは物価上昇の中で非常に限られた家計という資源を、どうやって自分たちは無駄なく使うかという、家計を守る目的で出てくる消費者行動の一つです。
情報化社会と言われる中、消費行動は一直線にオンライン消費にシフトしていくような単純な形にはならないのです。
ライフスタイルの多様化と生活保障のあり方
共働き時代に求められる家計の備えとは
投資や金融商品に関してでいうと、名目賃金は少しではありますが上昇しているものの、物価上昇のスピードの早いことから実質賃金が物価上昇に追いついていない状況にあります。
家庭の共働きが増えているとはいえ、女性の場合で例えば
- 子どもが生まれたのを機に正規の仕事を辞めて、その後パートタイマーで労働を続ける
- 夫の転勤などで正規を諦めて、新しい場所でパートやアルバイトを始める
というように女性の就業率を見ると高くはなっていますが、その中身を見ると、低賃金不安定労働が固定化されているというのが現状です。
そうすると、今の共働き世帯が単純に単独で働く世帯より2倍の収入を得られるわけではありません。しかも、性別役割分業が解消されていない中では、女性は働きに出る一方で家事、育児、介護の負担をも背負わされているという意味で、有償労働と無償労働が一気に女性にかかってきます(二重負担)。ですから女性はパートやアルバイトを選ぶケースが多くなります。さらに育児・介護のための支出、惣菜の購入などにお金がかかってくることもあります。
そのため、共働きになったからといって、家計に余裕が出てくるかというとそうなるとも限らないわけです。 また、教育費は大学まで考えると数千万円かかる中、今日では公的支援や、各私立大学でも、奨学金制度を充実させてはきていますけれども、全員が対象ではありません。このような中で、将来の子どもの教育費のことを考えた貯蓄、さらにそれを超えて20代ですでに2-3割の人が病気や介護、そして老後のための貯蓄も考えている状況です。
しかも貯金ができない世帯(金融資産を持たない世帯)の比率が金融広報中央委員会の調査(2023年)では5000世帯分の調査ですが二人以上世帯で3.1%が「金融商品を保有していない」と回答していますし、 年収800万円を超える程度の50代以上でゆとりのある富裕層は、十分な余裕資金を使って投資もできます。
しかし、子育て中の共働きの世代は、公的支援もそこそこで賃金も伸び悩み、物価が上昇中の今、将来どうするか、余裕資金を持てるかどうかを考えるより、今後「余裕資金が持てたらありがたい」ぐらいしか考えられない状態だと思います。
一方で、30代〜50代の正社員であれば福利厚生も保証されます。ライフステージ上、子供がいる世帯では教育費が必要になりますし、親の介護費用のことも考えなければなりません。
介護保険を使ったとしても、働き続けていく以上、時間と時間の間を埋める、自由裁量に任されている介護サービスが必要になってくることもあります。家族の力が前提とされている、今の日本の老後保障システムをなんとか全面的に社会化していかなければ、まだまだ共働きの世帯が、余裕資金を生み出して自分たちの生活設計を立てるというところに踏み出せないのが現状なのではないでしょうか。
また、2010年ぐらいまでは、日本人の金融資産の持ち方というのは、預貯金、つまり流動性が高く安定性があるものに信頼を置いていました。 ところが今はそれを上回って、「リスクはあるがリターンが望める投資」を求める人たちの数が増えたんですね。一方で、NISAの口座は開いたものの、運用をしていない・使い方がわからない人たちは、2024年時点で38%もいます(金融庁調査)。
したがって、関心はあるけれども踏み出すことはできない、もしくは踏み出しても余裕資金を持って踏み出しているのか、それとも生活費を賄うという意味で投資に関心があるのかでも投資行動は変わってきます。
そのため、もし余裕資金があるのであれば、安定性を求めて安定的な資金を維持しつつ、それを投資に回してみることも手かもしれませんが、余裕資金を利用するものでなければ、家計にかなり無理が生じ家計の不安定性につながってしまうのです。特にこれだけ国際情勢が不安定であればハイリターンよりハイリスクな投資を覚悟しなければならなくなるでしょう。
教育費・住宅費に備える資金計画の考え方
教育にかける支出はなかなか削れないものです。しかし、所得格差が教育の不平等につながることを少しでも緩和させようとする要望が高まる中、大学でも各種の奨学金制度を充実させる動きが出てきました。
昔は日本育英会、今は日本学生支援機構が担っている制度がよく利用されていますが、今は有利子が7割程度になったり、免除規定が極めて狭まったりということもあって、各私立大学は独自に奨学金制度を充実させています。
手元の限られた資金でどう家計を運営するかということ以上に、公的な支援、それから自分の子どもたちが進む道筋にある、上記のような様々な制度の情報を絶対に逃さないようにしましょう。
それから住宅ローンに関して、こちらは人生でも一番大きな借金と言っても過言ではないと思います。実際にどのくらいの方たちが焦げ付きを出していて、 住宅を手放さなければならなくなっているかを探るのは難しいのですが、やはり0.2〜0.3%ぐらいの確率で、住宅を途中で手放さなければいけない人たちがいるはずなんですね(独立行政法人住宅金融支援機構)。
住宅を手放さないで済むよう、常に「住宅ローン」という巨額の「債務を負っている」ということをきちんと考えた上での家計運用が必要になります。
そのため、世帯所得が途中で途切れないよう夫婦の正規での共働きは究極の安全策ともなりえますし、教育費についてもできるだけ奨学金を得られるよう情報収集を欠かさずにする、そして生涯賃金を考えて身の丈にあった住宅を購入することが大切になると思います。
もちろん、余裕資金があれば投資に回しても良いのですが、 特に住宅ローンのような固定的な長期にわたる支出というのは、安定した家計運営を必要とするので、 このような長期計画を持たなければいけないご家庭に限りませんが、周囲の圧力やご家庭の事情にもかかわらず申し上げたいのは、第一に、特に女性は子どもが生まれても夫の転勤があったとしても正規労働者であることをやめないことが必須です。
パートやアルバイトの賃金は正規雇用と比較すると半分ほどとなってしまいますし、夫の方にも、万が一の事態が発生してしまうかもしれません。ということを考えると、やはり2人の働き手がいるというのはまず自分たちでできる最大の安全策であると考えています。
消費と自己実現の関係

経験消費は満足度や自己実現にどう影響するか
自分のためだけではなくて、家族としての時間を過ごすためにも必要とされる時間ですし、現在言われているように、子どもの成長に向けて、どれだけ子どもの頃に経験を積ませることができたか、そういった話が注目を集めるようになりました。
しかし、こうした消費のためのコストと効果の関係は実際には簡単に比例はしません。例えば、「推し消費」にも関心が高まっていますが、高校生の推し消費の金額早く一ヶ月1万円程度とのことですが(R&C株式会社「推し活をしている人1,000人へのアンケート調査」)、満足感は非常に大きいことがわかっています。
旅行や体験、学びもそうですが、実際には費用対効果で測れるものではありません。 推し消費の例でいうと、1つ300円のグッズであってもそれを購入することで「推している」相手を助けているといった感覚を具体化させることができ、それが自己実現につながると考えると言われています。
ここでは「推し消費」を取り上げましたが、旅先での歴史、風景や人々との出会い、ゆっくり空を見ながら悩みを解決する、新たな価値を見出す、そんな「経験消費」は自己実現という観点で見ても重要な消費行為です。
ただし、最初でお話しした必需的な消費の巨額化が物価高のもとで顕著になっている今、レジャー、余暇に関わる消費支出や教育費への支出も抑制されているのが現状であり、残念です。
家族と自分自身の支出バランスが生活満足度を左右する理由
どのような属性の世帯をモデルにするかという点で非常に難しいのですが、例えばこれが子育て中の世帯で、子どもと一緒に経験するという「今でしかできないこと」に、自分の価値観を置くのであれば、家族のための支出は自身にとっても非常に生活満足度が高いと思います。
ただ、子育て中だが自分はずっとやりたいことがあるものの、なかなかできないという場合には、家族つまり子どものための消費が、自分のための満足度とはつながらない可能性もあるわけです。
そこをどうバランスを取ったらいいかというのも、時間とお金の問題になると思うのですが、少なくとも多くの方は、「育児の時期は子どもに時間が取られても仕方がない。」という入り口から入って、「むしろその環境を自分の生活時間管理に組み込もう」と考え、自分に対する経験値として蓄積されていくものだと捉えられるよう、職場環境も社会環境も整えられていけば、自分の趣味よりも子どもと一緒に過ごすことへの生活満足度にシフトしていくことも考えられます。
とはいえ、ここに介護問題が入ってくると話が変わります。
一例を挙げれば、スウェーデンでは介護はほぼ100%社会化されておりまして、公的介護の質の低下に不安を抱くことはあるものの、自分の親を介護しなければいけないために自分の人生が変わってしまうということはあまりありません。介護での離職や家族崩壊といったことは考えにくいのが現状です。
このように、スウェーデンの例では、自分のためのライフステージ、ライフサイクルを考えて生活設計をしていけば良いので、生活満足度は私たちには考えられないぐらい高いこともわかっています。
逆に、日本のように、いつ終わるともわからない、まさに終わりが見えない介護問題を抱えている家庭が多い国では、介護のための支出が非常に大きいですし、そこにすべての時間を取られます。介護のために雇用も失うかもしれない、公的介護と公的介護の合間を在宅でどう過ごさせるのか、そんな苦悩を抱えながらいくら支出が増えたからといって生活満足度にはつながらないのが実態です。
そのため、家族への支出と自分自身への支出のバランスや生活満足度は、世代や属性によってかなり違ってくると思います。
老後不安が貯蓄行動に与える影響
昔はひたすら貯蓄率を高めるという形で、将来の不透明性に対処しようとしていたのですが、今の傾向としては、投資にも足を踏み出しているというのが現状です。
この背景には
- NISAやiDeCoなど、新しい制度ができて、小口投資をしてみようというインセンティブが生まれたということ
- 実質賃金が上がらないうえ、若年層も将来自分を取り巻く経済環境が良くなると考えていないこと
があります。また、若年層はある意味現実主義と言いますか、将来景気が良くなり明るい未来がやってくると考えている人は少ないのが現状です。
消費行動を変える新しい価値観 ですので、「賃金もどうせ上がらない、政府も貯蓄から投資へと言っている、投資をした人が儲かってるような話も聞いている、今物価も上がっているし、株価も金の価格も上昇中」→じゃあNISAをやってみようということになるわけです。不透明感が高まる現代、経済的な価値で将来の安定性を確保しようとする、そういうことです。
一方、同じく先行き不透明な状況下で、地方に目を向けると、違った形で不透明性とか将来の不安定さに対処しようとする動きが見られるようになりました。
例えば超高齢化が進んでいる農村などでは、自分たち高齢者が助け合いをすることで、お金がかからない生活をしていこうという動きや、自ら仕事を生み出し、移住者にも協力を求め、地域にある資源を有効活用しながら助け合いのための財源を生み出そうとする動きもあります。
具体例としては、岩手県花巻市高松の集落では
- 小さい頃にナツハゼを道すがら歩いて食べたというおばあさんの話を聞いて、それをゼリーにして商品化し、売り上げで中古のバンを購入し、病院や買い物に行く住民の送り迎えができるような資格を取得し、お年寄りをサポートする
といった動きを進めています。このように、経済的価値ではないところで、自分たちの先行きの不安定さを地域の中でお互いに助け合うことで補っていこうという動きが、地域ごとには出てきているのです。
それから、若者の間でもシェアカーを活用する動きもあります。シェアカーが環境に良いから、という問題よりもおそらく費用の問題であるかなと思うのですが、このように、将来の不安に対応する形で、私たちがさまざまな選択肢を作り出しつつあるというのも大きな変化かと思います。
消費行動を変える新しい価値観

サステナブル・エシカル消費はどこまで広がっているか
サステナブル消費、エシカル消費という言葉は講義で使うことが多いのですが、エシカル消費というのは倫理的な消費といいまして、モラルに基づいて、例えば環境を守るための消費に踏み出すことなどが挙げられます。
ただ、 サステナブル消費、エシカル消費について、欧米などの諸外国と比較すると、日本では認知度は高くなっている一方で、実際にその消費をしている人はあまりいません。
戦争に加担するような消費は避ける、あるいは環境によくない石油製品を使ったものから脱したいという気持ちが生まれてはいるのですが、その消費をするためのお金がないんですね。 家計に余裕があれば、サステナブル消費、エシカル消費を考えることもできますし、時間的に余裕があれば探して、自分の意識に基づいた消費対象を見つけてお金を投じることもできるかもしれません。
しかし、総じてエシカル消費というのは高くつくので、より高い値段で市場に出回っているものに対して躊躇なく手が伸びるようになるかというと、難しいのが実態です。
企業姿勢が購買行動に与える影響とは
企業の社会的取り組みという意味では、日本よりもヨーロッパの方が大きい傾向があります。
有名なところでは車メーカーが昔流したコマーシャルで「私たちは環境を破壊するものを作っています」というものがありました。これは、「自分たちは車を売らなければいけない一方、車の作り手として、それが環境に悪い影響を与えていることを理解しています」というメッセージを一言で言い表したものです。
世界的には上記のようなメッセージが消費者の心を打つ時代になってきたんだなとは思っています。また、企業の社会的取り組みが問われるようになってきたのは日本でもある程度一緒で、やはり企業が少しでも犯罪に手を染めたり、あるいは不当な表示をしたりしたといえば、すぐさま売れなくなってしまいます。
そのため、企業の社会的取り組みは、消費者自身にとっても、他の誰かを傷つけないためにも、極めて重視されるべきポイントとなる意識が高まっていることは確かだと思います。
一方、ブランドや社会的イメージを大切にする企業の商品を消費者がエシカルな理由だけで実際に購入するかといえば、市場の商品より2割ほど値段が高ければ手が伸びないとも言われているので、コストを考えれば企業のエシカルな方向性も退歩してしまう可能性があります。
これらの事情を考えても、やはり消費をするためには所得が必要です。せっかく社会的取り組みにも関心を持つ若い世代が増えてきているので、その人たちがこれから市場の中心になっていくときに、企業やあるいは社会全体が十分に消費できるだけの賃金と、雇用の安定性、消費されるべき商品を生み出すことができるかが、今後重要になってくると思います。