今回は佐賀大学 経済学部にご在籍で、社会法学や社会保障法などを研究されている平部 康子教授に、マネーキャリア編集部が独自インタビューを行いました。
この記事の目次
- 平部 康子教授のプロフィール
- 社会保障の中で、子どもはどう位置づけられてきたのか
- 従来の考え方:子どもは「親の扶養に付随する存在」
- 変化の兆し:児童手当を例に見る制度転換
- 「子どもの法益主体性」とは何か
- 子どもの権利条約がもたらした大きな転換
- 国民健康保険制度に見る「子ども本人」を守る仕組み
- 子育て世代の家計に制度は十分対応できているか
- 出産期・大学進学期に集中する家計リスク
- 18歳以降の若者支援が手薄なことへの課題と対策
- 年齢で区切る制度が「子どもの就学の多様性」に追いついていない現実
- 海外と比べて見える、日本の子ども支援制度の特徴
- 親の扶養責任が強い日本、柔軟な欧州諸国
- 子育て世帯が現状の制度面で恩恵を受けている点と課題
- 子育て世代が知っておきたい制度の活かし方
- 「制度を知り、うまく活用すること」が重要
- 自治体制度・個別相談を上手に使う視点
- 日常生活に活かす「子どもの権利」という考え方
- 意見表明を促す家庭での関わり
- 日本と海外の違いに見る、子どもの声の扱い方
平部 康子教授のプロフィール
所属
佐賀大学 経済学系 経済学部 経済法学科 教授
学位・学歴
修士(法学)(1996年3月 九州大学大学院法学研究科)
論文(近年の代表例)
ソーシャルワークの倫理と規範 西村淳・丸谷浩介編著『ソーシャルワーク法』 220-232 2025年3月
高齢者に対するソーシャルワーク法 平部 康子 西村淳・丸谷浩介編著『ソーシャルワーク法』 75-85 2025年3月
障害者に対するソーシャルワーク法 平部 康子 西村淳・丸谷浩介編著『ソーシャルワーク法』 30-45 2025年3月
社会福祉の法政策の展開と法体系 平部 康子 平部康子・木村茂喜編『地域生活を支える社会福祉と法』 10-22 2024年3月
子どもの権利と児童虐待防止法 平部 康子
平部康子・木村茂喜編『地域生活を支える社会福祉と法』 104-121 2024年3月
他18件
著書
新たな時代の社会保障法 山田, 晋, 西田, 和弘, 石田, 道彦, 平部, 康子, 丸谷浩介 (担当:編者(編著者), 範囲:生活自立支援保障法における教育保障の展開) 法律文化社 2022年8月 (ISBN: 9784589042255)
社会福祉法入門 河野, 正輝, 阿部, 和光, 増田, 雅暢, 倉田, 聡 (担当:分担執筆, 範囲:社会福祉の財政と利用者負担) 有斐閣 2015年7月 (ISBN: 9784641144552)
地域生活を支える社会福祉 日本社会保障法学会 (担当:分担執筆, 範囲:虐待・暴力と社会的支援) 法律文化社 2012年7月 (ISBN: 9784589034397)
わかりやすい社会保障論 石橋, 敏郎 (担当:分担執筆, 範囲:児童福祉・社会手当) 法律文化社 2010年5月 (ISBN: 9784589032713)
やさしい社会福祉法制 石橋, 敏郎, 山田, 晋, 伊奈川, 秀和 (担当:分担執筆, 範囲:高齢者福祉) 嵯峨野書院 2008年6月 (ISBN: 9784782304884)
引用:researchmap
社会保障の中で、子どもはどう位置づけられてきたのか

従来の考え方:子どもは「親の扶養に付随する存在」
日本の社会保障では、親の状況と連動して決定されるような仕組みであったといえるかと思います。
基本的には、子どもは親の扶養に付随する存在として位置づけられ、支援も親の所得や就労状況などを踏まえて「親を通じて行うもの」が中心だったと言えます。
たとえば、税制上の扶養控除や、健康保険における被扶養者制度もそうです。子ども自身に給付や権利があるというよりも、「親が育てているから、その親を支える」という間接的な構造でした。
その背景には、家族の責任を重視する日本型の社会保障思想があり、民法でも、親に扶養義務があると定められていますので、上記の通り、子どもの扶養は親の責任だと考えられてきたと思います。
変化の兆し:児童手当を例に見る制度転換
児童手当は、日本の社会保障における重要な転換点だと考えています。
児童手当が最初にできた頃は、 3人目から・5歳未満に支給するといった支給の要件があり、「子どものため」ではなかったんですよね。
世帯の中に子どもがたくさんいて、お金が不足するから支給する。世帯への給付であって子どもへの給付ではない。
そのため、親の所得制限も当然に設定されていたというわけです。
しかし、現行の制度は、一人目から子どもが高校を卒業する18歳まで支給され、親の所得制限がなくなりました。ですから、これが子どものための給付という形に近づいてきている。
もちろん親と子どもの両方を支える機能は依然としてありますが、子ども自身の育ちのためにという意味合いが強まってきていると理解できるでしょう。
これは、子どもを独立した権利の主体として捉える方向に、制度が少しずつ近づいてきたと言えると考えています。
「子どもの法益主体性」とは何か
子どもの権利条約がもたらした大きな転換
「子どもの法益主体性」とは、子どもを大人に保護されるだけの存在ではなく、自分自身の権利をもつ主体として捉える考え方です。
この発想を国際的に明確に打ち出したのが、1989年に採択された国連の「子どもの権利条約」で、日本では1994年に批准されました。
この条約は、子どもにも生存・発達・保護・参加といった権利があることを定めており、とくに重要なのは、権利を行使するために「子どもの意見を聴き、それを尊重する」という視点です。
子どもは権利の客体ではなく、主体であると、子ども自身にも権利があるということが強く言われるようになりました。
したがって、子どもは単純に誰かによって守られるという位置付けだけに押し込めるのではなく、子ども自身に権利があって、成長・発達する権利があるとか、だからこそ親の所得等の条件とは切り離して、「子どもが存在する/子どもである」ことを条件に給付をするような形が増えてきました。
国民健康保険制度に見る「子ども本人」を守る仕組み
分かりやすい例の一つが、医療保険の分野です。
例えば、国民健康保険というのがありますよね。会社員は普通健康保険に入りますから、国保は雇われる形でない自営業の人のほか、職のない人もカバーしています。
とはいえ、安定的な所得がない人が国保の保険料を滞納してしまうと、医療サービスが受けられなくなるのですが、その世帯に例えば子どもがいた場合、以前までは親が保険料を払えないと子どもも医療が受けられない仕組みでした。
しかし、これが途中から変わりまして、親が保険料を滞納していても子どもには、医療サービスを子ども自身だけは受けられるような仕組みが導入されました。
このように小さな変化ではあるけれども、子ども自身の健康を守る、成長するような権利が上記のような例でも、着目されるようにはなってきています。
ただそれが、子どもが関係する分野の広がりや必要な給付の水準について十分であるかというと、始まったばかりなので不十分な点もあるかと思います。
子育て世代の家計に制度は十分対応できているか

出産期・大学進学期に集中する家計リスク
家計への負担が最も集中しやすいのは2つありまして、家庭にとっては働く時間が制限される「子どもの出産・乳児期」、そしてもう一つは「子どもが大学などに進学したとき」です。
出産期には、出産費用だけでなく、育児休業による収入減少や、復職までの生活費といった問題が一気に押し寄せます。
ただ、私自身が注目しているのは後者の方で、「子ども期」が伸びた状態にある大学進学期には、学費に加えて生活費や仕送りなど、長期間にわたる支出が発生します。
特に大学の教育費については、「自分のための投資」という考え方のもと、家計の自己負担が当然視されやすい面があります。
18歳以降の若者支援が手薄なことへの課題と対策
特に、成人年齢が18歳になったものの、実際には大学などに行く率も高くなりましたから、やはり親の負担はしばらく続く状態。これに対しての負担軽減はとても手薄い点が課題だなと思っています。
そこで対策としては、以下2つがあると考えています。
- 18歳になった若者自身に権利を与える形で費用軽減
- 若者が18歳を超えても、就学のためにまだ働けないような子どもを扶養する親に対して一定の費用軽減
たとえば、イギリスの場合、児童の定義を割と柔軟に考えていて、子どもや若者のための給付をする場合に就学をしている場合は給付年齢を延長する、といったような規定があります。
したがって、まだ一人立ちできていないような状態の若者をもっと強く支援する仕組みは考えられてもいいのではないかと思っています。
年齢で区切る制度が「子どもの就学の多様性」に追いついていない現実
結論から言えば、年齢で一律に区切る制度は、現在の若者の実態と合わなくなってきています。
子どもというものの定義を、 年齢だけではっきり区切るというのを、もう少し見直した方がいいのではないかと考えています。
例えば、児童手当は18歳の3月31日まで給付できる仕組みとなっていますが、イメージとしては高校が終わるまでというものだと思います。
制度自体は「何歳で卒業し、何歳で就職する」という標準的なライフコースを前提に設計されてきましたが、実際には中退、留年、再進学など、進路は多様化しています。
そのため、一度その「ライフスタイルのトラック」から外れると、各種給付の対象から外れてしまうケースに対して対応しきれていないと思います。
人生の移行期が長期化している現在では、年齢そのものよりも、その人がどのような状況に置かれているのかという視点で支援を考える必要があると感じています。
海外と比べて見える、日本の子ども支援制度の特徴
親の扶養責任が強い日本、柔軟な欧州諸国
日本の制度の大きな特徴は、子どもの扶養義務を、非常に強く親に帰属させている点にあります。
学費や生活費は基本的に家庭が負担するものとされ、教育を受けて利益を受けるのは本人自身だから、当然に社会からなどのお金は使わないという考え方でした。
しかし、少子化が進んできて若い人たちが社会を支え貢献する意義はますます大きくなっており、教育の利益は個人に還元されるものだけではないという考え方も広がってきました。
そういう意味でも、子どもが教育を受けている期間の本人の負担や親の扶養の軽減をもっと行うべきではないかと思っています。
欧州諸国の多くでは、子どもや若者を社会全体で支えるという意識がより明確です。 こうした仕組みは、「親に頼れない若者」を早い段階から社会が包み込む役割も果たしています。
子育て世帯が現状の制度面で恩恵を受けている点と課題
まず、恩恵でいうと育児休業という労働法上の休む権利ですね。
これは時短も含めて、だんだんと制度が根付いてきていますので、この権利を利用できるっていうのは、子育て世代が受けられる恩恵であるかと思います。
休む権利というものは制度的に存在するだけでは機能せず、やはり社内的に取りやすいのか取りにくいのかという点に関しては、会社ごとに異なってくる部分かなとも思います。
また、社会保障では雇用保険の方で、育児休業手当という制度ができまして、さまざまな形で育児休業を取ることを促進するような仕組みを導入しています。
とはいえ、これらの雇用保険の給付が受ける前提として「休む権利が実際に取得できるか」というところにあるので、所属している会社によって差が生じることは避けられません。
加えて、いくら育児休業を取れるとはいえ、自分自身のキャリアが中断してしまったり、仕事での能力が停滞してしまったりすることは復職に不利に働くので、復職後のキャリアが担保されるような仕組みがあるとなお良いと感じます。
子育て世代が知っておきたい制度の活かし方
「制度を知り、うまく活用すること」が重要
一番大きいのは、育児休業給付などの制度を就職して早い段階で把握して、計画的に使うことです。
たとえば、育児休業について、男性も女性も取れるような仕組み、そして両方が取ると休業期間も給付もお得になるような制度設計になりました。
そのような制度設計の意図を読んで、自分たちのライフスタイルに合わせて、キャリアを途切れさせないように、何回か分割して使ったりする方法もあります。
そのため、制度の細かい内容についても少し早めに知っていた方が、パートナーとの役割分担や自分のキャリアを考えるのに役立つと思います。
自治体制度・個別相談を上手に使う視点
まず、一般的な制度であれば、自発的に調べるのが良いかと思いますが、それに付随する細かい措置が多くあり、これらを網羅するのは難しいでしょう。
例えば、育児休業を受けている間は、社会保険料は免除になりますが、途中で(夫の扶養にならず)フリーランスに転職したら免除はどうなるのだろうか、とか疑問が生じると思います。
このように、調べてもよくわからないことについては市役所の窓口などに聞いてみるといいかなと思います。
もう一つは、例えば、ひとり親になった、子どもに障害があることを気が付いたなど場合にも、自治体によるサポート制度はかなり違いがあります。
そのため、自分一人で抱え込まずに、自治体や支援機関の相談サポートを使い、自分にあったオーダーメイドの情報を得るのは有効な方法だと思います。
日常生活に活かす「子どもの権利」という考え方
意見表明を促す家庭での関わり
権利というのは、場面によっては主張しないといけないんですよね。
ところが日本の制度で全体を見てみると、 私達大人は子どもを守ることはやってきていても、「子ども自身が自分の意見を表明すること」を促し、子どもが自分の権利を自分で守ることを教えてきたかというと、海外と比較しても随分と遅れているように思います。
自分の権利を主張し守ることは、相手の言い分を聞かず周囲へ敵対的な態度で接することとは違います。
年齢に合わせて子どもが自分の意見を説明し、表明することを親が促していくことが必要だと思います。
日本と海外の違いに見る、子どもの声の扱い方
海外、特に欧州では、子どもの意見を「未熟なもの」と切り捨てるのではなく、年齢に応じて社会の中に位置づける意識が強いと感じます。
たとえば、児童虐待があった場合に、福祉を担当する児童福祉司が何があったの?とは聞きつつも、司法の場では子どもは全く蚊帳の外とされてきました。
ですがイギリスなどでは、一定の意見表明の機会を子どもにも与えています。自身に関する意見対立や紛争の解決のための司法や準司法的な場においても「子どもは守られていればいいですね」という扱いは、年齢に応じた配慮を講じたうえで、今後変わっていく必要があるのではと考えています。
私も大学で教えているなかで、上記のような意見表明の場を作ることを意識していますが、 やはりもう少し前から、我々大人がいろんな仕組みで子どもにトレーニングすることが必要じゃないかと、法的にいえば「機会を与えること」が重要であると思っています。