財務省が制度見直しへ 高額医療費負担制度と高額療養費制度の違いのサムネイル画像

国民健康保険に関し1カ月当たり80万円を超える高額な医療費が発生した場合、その一部を高額医療負担金として国が負担する高額医療費負担制度とひと月の医療費の自己負担額に上限を設ける高額療養費制度の違いを分かりやすく解説いたします。

記事監修者「谷川 昌平」

この記事の監修者谷川 昌平
フィナンシャルプランナー

東京大学の経済学部で金融を学び、その知見を生かし世の中の情報の非対称性をなくすべく、学生時代に株式会社Wizleapを創業。保険*テックのインシュアテックの領域で様々な保険や金融サービスを世に生み出す一歩として、「マネーキャリア」「ほけんROOM」を運営。2019年にファイナンシャルプランナー取得。

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財務省が「高額医療費負担制度」を見直しへ

財務省が「国保運営の予見可能性を高めるためにも、廃止に向けた道筋を工程化すべき」と「高額医療費負担制度」の見直しを検討していると7月26日に言及し話題になっています。


国民健康保険の高額医療費負担金に関する制度で現行のルールでは1カ月当たり80万円を超えるような高額な医療費が発生した場合、その一部を国が負担するルールとなっています。


この高額医療負担金を国ではなく都道府県が負担するべきだと議論になっています。


東京都のように現役世帯の人口が多く、税収等財源が安定している自体であれば問題ないかもしれませんが、高齢者の多い地方自治体など税収等が安定していない場合、その負担に耐えられるのか心配されています。


負担に耐えられなくなった地方自治体が、ほかの行政サービスを削減することになったり、保険料を引き上げたりすることに繋がり国人生活を圧迫することになるのではないかと懸念の声が上がっています。

見直しされる高額医療費負担制度とは

高額医療費負担制度とは、

「都道府県に対し、被保険者に係る全ての医療に関する給付に要する費用の額に対する高額な医療に関する給付に要する費用の割合等を勘案して、国民健康保険の財政に与える影響が著しい医療に関する給付として政令で定めるところにより算定する額以上の医療に関する給付に要する費用の合計額の四分の一に相当する額を負担する」

と定める制度です。


要するに、財政の弱い市町村の負担を軽減するために、1件あたり80万円を超える医療費に関しては、超過分の4分の1ずつを国と都道府県が高額医療負担金として市町村に対して給付し負担するという制度です。


この「高額医療負担制度」は国と都道府県と市町村の間での取り決めです。

誤認されやすい高額療養費制度との違い

高額療養費制度とは、同じ月の1日から末日の間に支払う医療費が自己負担限度額を超えた場合に、超えた分の医療費が払い戻される制度です。


高額療養費制度があるおかげで、大きな病気やけがをして高額の医療費がかかったとしても1か月の医療費の自己負担額に上限が設けられているため、国民が安心して治療にあたれるようになっています。


例えば、70歳未満で標準報酬月額 28万~50万円の人が、ひと月に総医療費が100万円で自己負担額は3割の300,000円を支払った場合を想定します。

  • 自己負担限度額: 80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円 
  • 高額療養費として支給される額:300,000円-87,430円=212,570円
  • よって、自己負担額は87,430円


高額療養費制度がなければ自己負担額は総医療費100万円の3割である300,000円です。

以上のように、高額療養費制度があるからこそ安心して治療に専念できます。


高額療養費制度は自己負担額の上限は、年収に応じて異なります。

そして、こちらの高額療養費制度は、国と国民との取り決めです。


https://docs.google.com/presentation/d/1U9JKcY-ZDNgO9IkTSucjkwWrsbFXatXpjU50x0Xpzgc/edit#slide=id.g16eb2e9f1cd_0_0

見直しが言及されているのは「高額療養費制度」ではなく「高額医療費負担制度」

「高額療養費制度」と「高額医療費負担制度」それぞれの制度について解説しましたが、今回見直しが言及されているのは、1カ月当たり80万円を超える高額な医療費が発生した場合、高額医療負担金として国が都道府県とともに市町村に対してサポートしている「高額医療費負担制度」についてです。


「高額療養費制度」と「高額医療費負担制度」は全く別の制度になります。


高額医療負担金を支給することで市町村を補助する「高額医療費負担制度」の見直しについての言及から、高額な医療を受けた場合、自己負担額に上限が設けられていて国民に対するセーフティーネットになっている「高額療養費制度」そのものが改悪されるのではないかと勘違いをされています。


そして、ネットをはじめ様々なところで怒りの声が上がっています。


しかし、ネット等での怒りの声は「高額療養費制度」の見直しが検討され、国民が今までのように安心して治療を受けることができないのではないかという不安に対してですので、議論するべきポイントが違います。


正しく「高額療養費制度」と「高額医療費負担制度」を理解し、今何が変わろうとしていて自分自身にどのような影響があるか改めて整理する必要があります。


まとめ

「高額療養費制度」そのものがなくなるのではないかと勘違いをされていますが、そうではありません。

1件80万円を超す高額な医療費が発生した場合、その一部を高額医療負担金として国が負担する制度の見直しが議論されています。


そして、まだ検討の段階です。

今すぐに何か廃止になるわけではありませんが、今後改正されていくことは十分に考えられます。  


また、少子高齢化や医療技術の進歩による医療費の高額化など、医療費を取り巻く環境は厳しくなっています。


ひと月の医療費の自己負担額に上限を設け国民が安心して治療を受けることができる高額療養費制度も今後見直しされる可能性はありますので、公的保険だけに頼らない備えを国民一人一人が行う必要があります。


情報があふれ、誤った情報がすぐに広がる時代だからこそ、正確に現行のルールや制度を理解し、正しい情報に基づき早いうちからリスクに備えるという考え方が今後ますます重要になってきます。