使えないことも多い?高額療養費制度の落とし穴についてわかりやすく解説のサムネイル画像

自分や家族の思わぬ病気やけがで大きな支出が発生したとき「高額療養費制度があるから安心」だと思っている人が多くいらっしゃいます。しかし、対象の費用は限定されており想定した給付金が受け取れないというケースがあることをご存じでしょうか?今回は、高額療養費制度の範囲外である5つのケース・関連するよくある質問・その他の救済制度についてご紹介します。

記事監修者「谷川 昌平」

谷川 昌平
フィナンシャルプランナー

東京大学の経済学部で金融を学び、その知見を生かし世の中の情報の非対称性をなくすべく、学生時代に株式会社Wizleapを創業。保険*テックのインシュアテックの領域で様々な保険や金融サービスを世に生み出す一歩として、「マネーキャリア」「ほけんROOM」を運営。2019年にファイナンシャルプランナー取得。

この記事の目次

目次を閉じる

高額療養費制度とは?わかりやすくおさらい


突然の病気やケガで、思わぬ出費に驚いてしまうことも考えられますよね。場合によっては金額が大きくて払えない、なんてことも。


そのような時にあなたの医療費の負担を軽減してくれる制度が高額療養費制度です。

しかし、全ての診療・治療費が対象となるわけではないことをご存じでしたか?


まず高額療養費制度について簡単に説明すると、高額療養費制度とは病気やケガの治療・入院などで医療機関を利用した際に、医療費の負担を軽減するための仕組みです。具体的には、ひと月(月の初めから終わりまで)の医療費が一定の上限額を超えた場合、超えた分の金額が申請後戻ってくるという制度です。

これは、健康保険の一つの制度であり、人々の医療負担を軽減させるため、また平等な医療行為を実現させるために存在しています。


さらに、この制度には、被扶養者の医療費を合算して申請できる「世帯合算」や1年に3回以上利用した人の自己負担額がさらに軽減する「多数該当」という仕組みもあります。


このように、突発的な医療費負担を軽減してくれるありがたい制度ですが、全ての診療・治療費が対象となるわけではありません。例えば、がん治療といった同じ目的でも、治療方法によって算出の対象外となることもあります。

自分から申請をしないと使えない制度であり、また、利用には条件があることから、いざというときに制度が使えない、と困ってしまうことが無いように本記事で理解を深めてください。


高額療養費制度についてもっと詳しく知りたい方はぜひこちらの記事をみてみてください

高額療養費制度があれば生命保険はいらない?メリット・デメリットを解説!

高額医療費制度との違いとは?

ネット上で高額療養費制度について調べようと思ったけど、高額医療費制度というものもでてくる。内容も似ている。実際のところどんなんだろうと疑問に思っている方もいると思います。

結論からお伝えすると、高額医療費制度というものは存在しません!

高額療養費制度の”療養”部分を”医療”と誤って認識してしまっている人が多くいる結果、ネット上でも「高額医療費制度」というワードが数多く見受けられる状態となっています。

そのような制度はありませんので、「高額療養費制度」と正しい単語で情報の検索を行うよう気をつけて下さい。

意外と多い!高額療養費制度が使えない場合とは?

もしもの時の医療費負担を担ってくれる高額療養費制度ですが、適用できないケースもあることから「使いにくい」と印象を持たれる方もいると思います。

ここでは、申請を予定している方が、「知らなかった」「条件を満たしていなくて使えない」とならないよう、誰でも申請できる高額療養費制度が持つ落とし穴を5つの項目に分けて詳しく説明します。

1.年収によって上限額が異なる

高額療養費制度は、治療費が自己負担限度額を超えた時に、その差額が支給される仕組みです。


この制度は保険に加入している人であれば誰でも申請して利用することができますが、その自己負担上限額は人それぞれの年収や年齢(69歳以下か70歳以上か)によって異なります。


特に、年収は細かい区分に分けられているので、ご自身がどこに分類されるのか事前に確認をし、実際の給付額との相違がないよう気をつけましょう。


以下が所得による分類表となります。

<70歳未満の自己負担限度額>

被保険者の所得区分
(標準報酬月額)
自己負担限度額
83万円以上252,600円+(総医療費-842,000円)×1%
53万円-79万円167,400円+(総医療費-558,000円)×1%
28万円-50万円80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
26万円以下57,600円
低所得者
(被保険者の
住民税が非課税等)
35,400円

<70歳以上自己負担限度額>

被保険者の所得区分
(標準報酬月額)
自己負担上限額(外来のみも同様)
83万円以上252,600円+(総医療費-842,000円)×1%
53万円-79万円167,400円+(総医療費-558,000円)×1%
28万円-50万円80,100円+(総医療費-267,000円)×1%



被保険者の
所得区分
外来(個人ごと)外来+入院(世帯ごと)
一般所得者18,000円57,600円
低所得者Ⅰ
被保険者住民税が
非課税
8,000円24,600円
低所得者Ⅱ
被保険者・扶養者全員
の各所得が全て0円
8,000円15,000円


2.治療が月をまたいで行われている場合

入院の必要があり、短期間であったとしても月をまたいでの入院となってしまう可能性も十分あります。このような場合に高額療養費制度を利用するには少し注意が必要です。


なぜなら、高額療養費制度は”暦月(月の初めから終わりまで)”ごとに算出されるので、入院が月をまたぐ場合は、2ヶ月分の申請が必要になるからです。この場合、月ごとに要した費用を申請するので、結果として自己負担額が、入院がひと月の間に収まっている場合よりも多くなってしまうことがあります。請求された費用項目によっては自己負担額が非常に多くなってしまう可能性もあるでしょう。


具体例と一緒に確認しましょう。

<Aさん>

・30歳

・年収から計算したひと月の自己負担上限額は80,430円(上の表参照)

・治療のため入院が必要であり、30万円を自己負担

この時にどれだけ高額療養費を請求できるかみてみましょう。


ーーーーーーーーーーーーーー

①入院期間12月20日ー12月27日 (ひと月)

入院がひと月で収まったケースです。30万円の治療費はAさんの自己負担限度額を超えているので、

300,000円 -80,430円 =219,570円

よって、219,570円の給付を受けることができます。


②入院期間:12月27日ー1月3日(月またぎ)

単純に治療費を12月分と1月分で半分と仮定して、ひと月あたりの治療費を15万円と仮定し計算します。

この場合の治療費も自己負担の限度額を超えおり、それがふた月分であるので

150,000円-80,430円=69,570円
69,570円×2ヶ月=139,140円

よって給付額は139,140円となります。

ーーーーーーーーーーーーーー

このように月をまたいだことが原因で得られる支給額が大きく変化してしまうこともあるので、日にちを選べる場合は月初めからの入院をおすすめします。

3.自己負担額が非常に多くなってしまうケース

高額療養費制度の対象は、患者が支払った全ての費用に対してではありません。 保険適用される診療に対して払った治療費が適用対象となります。


そのため、治療自体とは関係なく、個室を選択した場合にかかる費用「差額ベット代」や、病院内での「病院食」や「レンタル病院着」などは制度の対象とはなりません。


また、医療保険適用外の診療も制度の対象外となります。 例として、美容医療やレーシック手術、がんの自由診療や、保険診療の対象とならない矯正治療などが挙げられます。 


下記のリンク先では、保険診療/先進医療/自由診療の違いや一般的な自己負担額の違いなどがわかりやすくまとめてあるので、こちらも併せてお読みください

自由診療と保険診療の違いは何?プロがわかりやすく解説!


制度をあてにして個室にグレードアップしたのに対象外で想定した給付金額が支給されない!ということがないよう、事前に確認を行いましょう。

4.各治療費の自己負担額が21000円以下の場合(69歳以下)

病院は一度受診したら定期的に受診しないといけないこともありますよね。他にも一箇所悪くなったら続けて別の病院にかかる必要になってしまったということも。


このように、ひと月に何度も診療を受けた場合でも、複数の病院を受診した場合でも合算して制度の申請が可能です。

しかしその場合、各診療の医療費が21,000円以上である必要があります。

21,000円以下の診療は合算申請することができないので注意しましょう。


しかし、70歳以上の方は21,000円という上限はありません。また、入院などをしておらず大きな金額ではないが、”日々の外来診療の積み重ねがある方”のために外来だけの上限額も設けられています。ぜひご自身の外来費が上限額を超えていないか確認してみてください。

5.加入している健康保険が家族間で異なる場合

高額療養費制度には、家族間での合算申請を可能にする世帯合算という仕組みがあります。

具体的には、同じ健康保険組合に加入している家族同士であれば、自己負担額の合算が可能となるという内容です。その際、家族の住所が異なっている場合でも合算が可能で、保険加入者とその被扶養者間の医療費を合計することができます。ただし、これは自己負担がそれぞれ21,000円以上の場合のみとなります。


一方、もし家族内で健康保険組合が異なるという状況が生じた場合、例えば共働き家庭などで家族間の保険が異なる場合、自己負担額の合算は行うことができず、世帯合算対象外となります。

ここで重要な点は、合算が許されるのは同じ保険組合に加入している人々同士、また、その被扶養者だけであるということです。


さらに、健康保険の被保険者(例えば、40歳の会社員)と後期高齢者医療制度の被保険者(例えば、85歳の高齢者)が一緒に生活している状況でも、同様に自己負担額の合算はできません。

少し複雑ですが、これらの特例を理解して申請を行いましょう。

高額療養費制度利用の注意点とよくある疑問

ここでは、高額療養費制度についてよく検索されている疑問点についてまとめています。 他にも役立つ情報について併せて紹介しているので、このトピックを通して疑問や不安を解消していきましょう! 



給付までにかかる時間は?治療費をすぐに用意できない時は

高額療養費制度の支給額は申請後に支給されます。しかし、医療機関等から提出される 書類をもとに審査などの手続きがあるため、給付には申請後も少なくとも3ヶ月以上かかります。ですので、治療費を支払う場合は自身でお金を手元に用意する必要があるので注意が必要です。


しかし突然の病気や事故などで、支給金なしに治療費や入院費を用意することが難しい、ということもあるかもしれません。


ここではそのような時に役立つ2つの制度についてご紹介します!


①限度額適用認定 

こちらは事前に申請して取得できる認定証です。
取得した「限度額適用認定証」とご自身の保険証を医療機関等の窓口に提示すると、ひと月の支払額がご自身の自己負担限度額までとなります。
高額療養費制度との違いは、給付金として還元される分を立て替える必要がないので、一時的とはいえ、余分な出費をしなくても良いという点になります。

また、70歳以上で住民税非課税世帯ではない人は、認定証を取得する必要はありません。
70歳以上75歳未満は窓口で「高齢受給者証」、75歳以上は「後期高齢者医療被 保険証」を提示すれば、支払いは自己負担額までとなります。

あらかじめ入院や手術が予定されている場合は、限度額適用認定を事前に申請することで、出費を最小限に抑えることができますので、この制度の利用をおすすめします! 

②高額療養費貸付制度

高額療養費貸付制度とは、高額療養費が支給されるまでの間、無利子で高額療養費支払い見込み金額の8割から9割の貸付を行う制度です。
急な入院等で限度額適用認定が間に合わず、治療費を支払う充分なお金が手元にないという方におすすめとなっています。
無利子ですので、これ以上負担を重くすることなく治療に必要なお金を用意できます。

必要な時に必要な治療をうけることを助けてくれる制度なのでぜひ頭の片隅で覚えておいてください。

申請方法など詳しく知りたい方は以下記事に目を通してみてくださいね

出産では使える?

出産では想像していたより費用がかかったということもありますよね。出産時も場合によっては対象となることがあります。


まず、対象外となるのはトラブルなく自然分娩で出産した場合です。通常の出産は病気とはされないため健康保険も適用されません。


一方、高額療養費制度の対象となるのは、帝王切開や吸引分娩などで出産を行った時の医療費です。これらは保険適用となるので高額療養費制度の対象となります。

同じ「出産」でも使える場合と使えない場合がありますのでご自身の状況に合わせてご活用ください。

1ヶ月に入院や外来、転院した場合でも合算できる?

結論からお伝えすると、合算できます。

しかし、上記でも繰り返しお伝えしているように、各診療時の治療費が21,000円以上でないと合算できないのでご注意ください。


また、70歳以上の方は外来だけの自己負担限度額も設定されていますので、複数回外来を受診しただけという方でも支給の対象となることがあります。

複数の病院を受診した場合でも高額療養費申請できる?

こちらの質問は前段の質問との関連性が高く同様に多くいただく質問です。

回答についても重なってしまいますが、保険適用対象の診療である、かつ、各診療時の治療費が21,000円以上であれば複数の病院を受診した場合でも申請することができます!


ひと月で、保険が適用される21,000円以上の治療であれば基本申請できると認識してもらって大丈夫です!

あわせて知りたい負担を軽減してくれる医療費制度

上記で紹介した制度以外にも、私たちの医療費負担を軽減させてくれる制度があります。

高額療養費制度の条件を満たしておらず使えない場合でも、他の制度が助けてくれることもあります。

今回は「医療費控除」「傷病手当金」の2つを紹介しますが、他にも状況に応じて私たちを支えてくれる制度がありますので、ご自身でも調べてみてください。

医療費控除

医療費控除・・・対象年の1月1日から12月31日までの1年間で、一定一定金額以上の医療費を支払った場合に、所得税が軽減される制度。対象となるのは10万円を超えた、かつ、保険で補填されていない金額。


☆ポイント☆高額療養費制度と併用することができる(ただし、高額療養費制度で支給された金額は保険で補填された金額に当たるので、併用には先に高額療養費を申請しておく必要あり)


こちらも詳しくは以下にまとめてあるので理解を深めてみてください。

医療費控除は無職でも受けれる場合がある!確定申告についても解説!


傷病手当金

傷病手当金・・・働きたいけど病気休業で働けない期間のお金の補償をしてくれる制度で、健康保険の一種。会社を連続して3日以上休んだ場合、4日目以降が支給の対象。


☆ポイント☆誰もが申請できる訳ではなく、休んでいる間に生活を支えるための充分なお金を得ることができない場合に限る


こちらも詳しくは以下にまとめてあるので理解を深めてみてください。

働けなくなった時の保険は?県民救済とその他救済の就業不能保険を紹介!

まとめ:高額療養費制度利用にはいくつか条件があるので事前確認が大切!

医療費相談
・年収によって、自己負担上限額が異なる

・申請はひと月(月初めから末月)単位であるので、月をまたぐと給付金が少なることがある

・「差額ベット代」や保険適用外の治療など対象外のものがある

・各治療費が21,000円以上である必要がある

・加入している健康保険が異なると世帯合算ができない


いかがでしたでしょうか。 万が一のことは誰にも予想できません。

 正しい資産形成とは「健康であっても、そうでなかったとしても」一生涯お金に困らないように計画を立てることが最も重要です。 専門家は、あらゆるリスクを想定したうえであなたにぴったりの貯蓄計画をご提示します。 

 この機会にマネーキャリアの無料相談をぜひご活用ください。

マネーキャリアで無料相談する