65歳以降も働かないと生きていけない?高齢者就業率に見る老後資産の危機のサムネイル画像

65歳以降も働いている人が多いことはご存知でしょうか。65歳以降も働かないと生きていけないのかなど、不安を持つ人も少なくないでしょう。そこでこの記事では、政府統計をもとに高齢者就業率を紹介しつつ、老後への備えについて考察します。

記事監修者「谷川 昌平」

この記事の監修者谷川 昌平
フィナンシャルプランナー

東京大学の経済学部で金融を学び、その知見を生かし世の中の情報の非対称性をなくすべく、学生時代に株式会社Wizleapを創業。保険*テックのインシュアテックの領域で様々な保険や金融サービスを世に生み出す一歩として、「マネーキャリア」「ほけんROOM」を運営。2019年にファイナンシャルプランナー取得。

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60代後半でも働く人は半数!その理由に多いのは「経済上の理由」

「65歳になったら退職して老後生活を送る」


上記のように、定年は65歳だと何となく考えている人も多いのではないでしょうか?なかには、定年は60歳だと思っている人も少なくないでしょう。


何歳が定年だとはっきり示すことは難しいですが、実は、65~69歳でも働いている人は多いです。具体的に言うと、政府統計の「労働力調査」によれば、2021年平均で就業率は50.3%と半数を超えています。


下図に65歳以上の高齢者就業率の推移をまとめました。


※総務省統計局「労働力調査 2021年(令和3年)平均結果の要約」を加工して作成


65~69歳の就業率は年々増加しているため、今後も60代後半で働く人は増えていくと考えられるでしょう。


内閣府が5年ごとに行っている「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」によると、60歳以上でも働き続けている理由は、健康や仕事そのものの面白さではなく「収入がほしいから」が最も多い結果となりました。


出典:内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」


つまり、お金のために60代後半になっても働いている人が多いという実態があります。

60歳以降にもらえる年金、必要なお金

「60代後半でも働いていないと生活が苦しいのかな?」と感じた人もいるかもしれません。そこで、まず60歳以降にもらえる年金を確認してみましょう。




上の図のように、会社員や公務員なら国民年金保険と厚生年金保険の2階建てで比較的厚い年金給付を受けることができます。


厚生労働省が取りまとめている「厚生年金保険・国民年金事業年報(令和元年度)」によると、会社員が受け取れる年金額は、平均で月額144,268円、分布としては男性が月額17~18万円、女性が月額9~10万円が多いとのことでした。


出典:厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報(令和元年度)」


一方、自営業や主婦・主夫の場合は、何もしなければ国民年金保険の年金給付しか受けられません。国民年金保険の年金給付(老齢基礎年金)は、満額で年額777,800円(令和4年度)です。


つまり、現時点では公的年金だけ見て夫が年額210万円(月額17.5万×12月)、専業主婦の妻が年額78万円の合計288万円(月額24万円)が年金収入のひとつの目安と言えそうです。


ただし、公的年金は物価や賃金に応じて給付水準が調整されるという大きな特徴があります。さらに、公的年金は税負担が生じる場合もあります。


そのため、ここで紹介した金額はあくまでも目安としておいてください。


次に、定年退職したときの退職金も目安として紹介します。


厚生労働省が取りまとめた「平成30年就労条件総合調査」によると、勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者の平均退職給付額は次のとおりでした。


  • 大学・大学院卒(管理・事務・技術職):1,983万円
  • 高校卒(管理・事務・技術職):1,618万円
  • 高校卒(現業職):1,159万円

ただし、退職金の額は会社の規模や業種によって異なる傾向があります。平均を見るより、勤め先の退職金に関する規定をもとに自分で見込額を計算するほうが高精度です。

老後の生活費をシミュレーションしてみよう

サラリーマンの夫と専業主婦の妻という世帯を見たとき、公的年金は年額288万円(月額24万円)程度がひとつの目安と紹介しました。


実は、政府統計の「家計調査」では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯(夫婦高齢無職世帯)の家計収支が下図のようにまとめられています。



出典:総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2020年」


消費支出224,390円、税金などの非消費支出31,160円を合計して255,550円が老後の生活費の目安と言えそうです。


なお、家計調査によると夫婦高齢無職世帯の家計収支は1,111円の黒字となっていますが、黒字だからといって楽観することはできません。


家計調査ではその他収入を含めて黒字となっており、年金(社会保障給付)だけ見ると赤字となってしまいます。


また、今回紹介しているのは2020年のデータですが、例えば2019年では33,269円の赤字、2018年では41,872円の赤字となっていました。


家計調査のデータはあくまでも平均であり、年によって家計収支が大きく変わる場合もあります。こちらも参考までとしておいてください。


なお、家計調査以外のデータでは次のようなものも参考になります。


  • 老後の最低日常生活費は月額22.1万円
  • ゆとりある老後生活費は月額36.1万円

資産不足で働かないといけなくなるかも

老後の年金収入や生活費は、勤め先の退職金制度や家族構成、暮らし方、健康状態、物価や賃金の変動などさまざまな要素に左右されます。


その前提ではあるものの、これまで紹介した老後の収入や生活費からすると、老後の家計収支が赤字となる可能性も否定できません。


例えば、「厚生年金保険・国民年金事業年報(令和元年度)」で紹介したとおり、片働き夫婦の年金月額が24.0万円で家計調査による生活費が「家計調査年報(家計収支編)2020年」のとおり約25.6万円とすると、毎月1.6万円が不足してしまいます。


仮に「ゆとりある老後生活」を目指して生活費が36.1万円とすると、不足額は12.1万円にも膨らんでしまうのです。


さて、この収支赤字は退職金などの資産(ストック)でまかなえるのでしょうか?


令和2年簡易生命表によると、65歳時点の平均余命は男性20.05年女性24.91年でした。ここでは、仮に65歳から25年間、つまり90歳まで毎月1.6万円の資産を取崩して生活することを考えましょう。


すると、老後の生活に必要な取崩資産額は、480万円(毎月1.6万円×12月×25年)です。


一方、ゆとりある生活を目指すとどうでしょうか?


ゆとりある生活の場合、老後の生活に必要な取崩資産額は、3,630万円(毎月12.1万円×12月×25年)にもなります。

無理して働かなくてもいいように!資産形成を早めにしておこう

老後のために必要な資産は、家族構成や健康状態、暮らし方、物価の変動などさまざまな要素で変動します。そのうえで、3,630万円もの取崩資産が必要になる場合もあると紹介しました。


60歳や65歳を過ぎても働くのであれば、その分だけ老後の生活に必要な資産を抑えることはできます。しかし、「早くリタイアしてセカンドライフを楽しみたい」と考えている人にとっては、可能なら避けたいところでしょう。


お金のために無理して働くことがないよう、iDeCoなどを通じて早めに資産形成を始めることがおすすめです。


自分が望む老後のために、ぜひ未来への備えを今から始めてみてはいかがでしょうか。