

この記事の監修者 井村 那奈 フィナンシャルプランナー
ファイナンシャルプランナー。1989年生まれ。大学卒業後、金融機関にて資産形成の相談業務に従事。投資信託や債券・保険・相続・信託等幅広い販売経験を武器に、より多くのお客様の「お金のかかりつけ医を目指したい」との思いから2022年に株式会社Wizleapに参画。
>> 井村 那奈の詳細な経歴を見る
この記事の目次
- 年金を繰り下げ受給すると後悔すると言われる理由とは?
- 寿命が予想より短かった場合受け取れる総額が少なくなる
- 受取開始までの期間生活資金が足りなくなる可能性がある
- 年金額が増えても健康状態や体力の変化で充実した活用ができない
- 税金や社会保険料が上がる場合がある
- 急に出費が必要になった場合に資金不足に陥る可能性がある
- 年金の繰り下げ受給で後悔しないために!無料のFP相談を活用してみよう
- 【実際どうだった?】年金を繰り下げ受給した方へのアンケート
- 繰り下げ受給して良かったですか?
- 繰り下げ受給して後悔したことは何ですか?
- 繰り下げ受給すべきか迷っている方へのアドバイスがあれば教えてください
- 年金の繰り下げ受給で後悔しないために知っておきたい注意点
- 寿命と健康状態の見通しを踏まえて実施判断をする
- 繰り下げ期間中に生活資金の確保ができるか確認する
- 万が一の際は繰り下げを途中でやめられる
- 税金・社会保険料の増加に注意する
- 配偶者や遺族年金との関係で年金受給額が増えるか確認する
- 年金の繰り下げ受給で後悔した場合の対処法
- 繰り下げ受給の途中で請求する(繰り下げの取りやめ)
- 一括受給をする(みなし請求)
- 公的制度の活用や専門家への相談で資金を確保する
- 【まとめ】年金を繰り下げ受給すると後悔すると言われる理由とは?
年金を繰り下げ受給すると後悔すると言われる理由とは?

受給を遅らせることで年金額が増えるというメリットがある一方で、やらなければよかったと後悔する人も少なくありません。なぜ老後の資金を増やすはずの制度で、後悔が生まれてしまうのでしょうか。
ここでは、年金繰り下げを選んだ人が実際に直面しがちな後悔のポイントについて解説していきます。
寿命が予想より短かった場合受け取れる総額が少なくなる
年金受給は、開始を1ヶ月遅らせるごとに、受給額が0.7%ずつ増加します。最大で84%も上乗せ(75歳まで※)されるため、一見お得な制度に思えますが、忘れてはいけないのは「長生きするほど得」という前提があることです。
たとえば、70歳まで繰り下げたとしても、受け取ってすぐに亡くなると、増額分を享受する期間はとても短くなります。結果的に65歳から普通に受給していた方が、総額は多かった可能性もあります。
生きる期間が読めない中で、受給開始を遅らせる判断には、常に損をするかもしれないというリスクが付きまといます。健康に不安のある方や、家系的に長寿でない傾向がある方にとっては特に慎重な検討が必要です。
※参照:年金の繰下げ受給|日本年金機構
受取開始までの期間生活資金が足りなくなる可能性がある
年金の繰り下げは、65歳以降の年金収入がない期間を自力で乗り越えなければなりません。多くの場合、この期間の生活費は貯蓄や退職金、投資収益などからまかなうことになりますが、想定していたよりも出費がかさむ可能性は常にあります。
特に医療費や介護費、突発的なリフォームなど、老後にありがちな不測の支出は軽視できません。
このように、収入がない期間が長引くことで、資金が枯渇し、やむなく資産を切り崩すことになれば、老後の後半に影響が出る可能性もあります。我慢して年金額を増やすつもりだったけど、途中で生活が苦しくなったというケースも少なくないことを念頭に置いておきましょう。
年金額が増えても健康状態や体力の変化で充実した活用ができない
年金を繰り下げれば受給額は増えますが、そのお金をどのように使うか考えることも大切です。健康状態によっては「使い道がない」「楽しめない」状況になってしまう可能性があるからです。
70歳を超えると、体力や気力が低下し、旅行や趣味といったアクティブな活動が難しくなる人も増えてきます。
「時間があるのに体が動かない」「お金があるのに使う気力がない」というのは、高齢者の方からよく聞く声です。年金が増えても、それを楽しむ健康状態が伴わなければ、意味が半減してしまいます。
税金や社会保険料が上がる場合がある
年金額の増加に伴い、思わぬ負担が発生することがあります。それが、税金や社会保険料の増加です。特に繰り下げで受給額が大きくなると、所得とみなされる金額が増えるため、以下のような負担が増す可能性があります。
- 所得税・住民税の増加
- 介護保険料の負担区分が上がる(※)
これらによって、実際に手元に残るお金が思ったほど増えないという事態になることも。人によっては「こんなはずじゃなかった!」と後悔の原因にもなるため注意が必要です。
急に出費が必要になった場合に資金不足に陥る可能性がある
高齢になると配偶者や家族の介護、自分自身の要介護状態など、予期せぬ事態が起こることは少なくありません。こうした場面で急に資金が必要になったとき、繰り下げによって安定収入が得られていない状況は大きなハンデになります。
特に、介護サービスを受けるには毎月数万円〜十数万円の費用がかかることもあり、貯蓄を取り崩さなければならないケースもあります。
繰り下げをしていると、そうしたタイミングで、お金が必要なのに年金が出ていない状態に陥ることも。いざというときに資金の余裕がないと、生活の質が大きく下がる可能性があります。
年金の繰り下げ受給で後悔しないために!無料のFP相談を活用してみよう

老後の資金計画は、人それぞれの人生設計や健康状態、家族構成によって大きく異なります。年金の繰り下げはメリットもある一方で、リスクも決して小さくはありません。情報を集め、自分だけで判断するのが不安な場合は、専門家であるFPへの無料相談を活用してみましょう。
一人で悩まず、第三者の意見を取り入れることで、考えに偏りがなくなり、後悔しない判断がしやすくなります。

【実際どうだった?】年金を繰り下げ受給した方へのアンケート
ここでは「繰り下げって本当にお得なの?」「後悔した人もいる?」そんな不安を抱える方に向けて、実際に繰り下げ受給を選んだ方々のリアルな体験談を集めました。
以下の質問を現役FPが解説していきますので、今後の判断材料にしてみてください。
- 繰り下げ受給して良かったですか?
- 繰り下げ受給して後悔したことは何ですか?
- 繰り下げ受給すべきか迷っている方へのアドバイスがあれば教えてください
※2025年6月13日~2025年6月16日時点での当編集部独自調査による
※受給期間や受給額は個人によって異なるためご了承ください。
繰り下げ受給して良かったですか?

この数字から見えるのは、繰り下げ受給は全員が得をする制度ではないという現実です。 満足している人が過半数を占めてはいるものの、もう半数の人は「満足していない、もしくは判断がつかない」と感じていることも分かります。
繰り下げ受給して後悔したことは何ですか?

最も多かったのは「元気なうちにもらうべきだった(38.8%)」と回答した方々です。これは、体力や気力があるうちに年金を受け取っておけば、旅行や趣味などにもっと使えたという機会損失への後悔が伺えます。
一方、27.2%の方は「特に後悔していない」と回答しています。これは繰り下げがうまくハマったケースとであったことが分かります。
繰り下げ受給すべきか迷っている方へのアドバイスがあれば教えてください

60代男性
生活が苦しくならないことが何よりの前提です
まずは生活費と貯金のバランスをしっかり見直すことが大切だと思います。繰り下げ期間中は年金収入がゼロになるわけですから、その間を無理なくやりくりできるかどうか、現実的な数字で確認しておいた方が安心です。年金を増やすのは魅力的ですが、生活が苦しくならないことが何よりの前提です。焦らず慎重に判断するのが一番だと思います。

60代女性
シミュレーションしてからすることが大切だと思います
繰り下げ受給を考えているなら、まずは一度シミュレーションしてみることを強くおすすめします。確かに年金額は増えるけれど、長生きしなければ元が取れない場合もあるので、そのあたりのバランスをしっかり見ておくことが大切です。私は自分のライフプランや家族の健康状態、万が一の出費も踏まえて検討しました。数字だけで判断せず、自分の状況に照らし合わせて冷静に考えることが後悔しないためのポイントだと思います。

70代男性
自分の健康と相談してほしい
元気で長生きしそうだと感じているなら、繰り下げによって年金額を増やすのは確かにメリットが大きいと思います。でも、もし健康に不安があるなら、早めに受給を開始して安心感を得るのも一つの選択肢だと思います。私自身もこれから何年元気でいられるかを自分に問いかけながら決めました。年金は将来の生活を支える柱ですから、自分の健康状態としっかり向き合って判断することが何より大切だと実感しています。

70代男性
税負担が減って手取りが増えました
繰り下げというと『年金を遅らせて額を増やす』というメリットばかりに目がいきがちですが、一時的に所得が下がって税金や国民健康保険料などの負担が軽くなる点もメリットです。65歳から年金の受給を繰り下げて働き続けた結果、所得を抑えることができたため、保険料の負担が減り、結果的に手取り収入が増えたように感じました。

60代男性
早めに調べておいた方がいいと思います
繰り下げ受給を検討している方は、早めに手続きや必要書類のことを調べておいた方がいいと思います。実際にやってみると、思ったよりも手続きに時間がかかることがあるんですよね。年金事務所の予約だったり、書類のやり取りに日数がかかったりと、想定よりもスムーズに進まないことがあって。私もギリギリで動いて焦ったので、もっと早く準備しておけばよかったと思いました。
年金の繰り下げ受給で後悔しないために知っておきたい注意点

年金の繰り下げにはリスクがあるとはいえ、使い方次第では将来の安心材料になるのも事実です。大切なのは、制度のしくみや自分自身の状況を正しく理解し、後悔しないための判断材料をそろえること。
このパートでは、繰り下げ受給を選ぶ際に押さえておきたい判断の基準や注意点をFPの視点から詳しくご紹介します。
- 寿命と健康状態の見通しを踏まえて実施判断をする
- 繰り下げ期間中に生活資金の確保ができるか確認する
- 万が一の際は繰り下げを途中でやめられる
- 税金・社会保険料の増加に注意する
- 配偶者や遺族年金との関係で年金受給額が増えるか確認する
寿命と健康状態の見通しを踏まえて実施判断をする
年金の繰り下げ受給は、長く生きるほど得になる制度です。そのため、自分の寿命が平均以上になると見込まれる場合は繰り下げのメリットが大きくなりますが、反対に早く亡くなる可能性がある場合は損をするリスクが高くなります。
たとえば、65歳から受給した場合と70歳から繰り下げて受給した場合の「損益分岐点」(※)は概ね81歳前後とされています。つまり、81歳より長く生きれば繰り下げた方が得ですが、それより早く亡くなれば、65歳から受け取っていた方が総額で上回る可能性が高いのです。
加えて、体調や既往歴、家系の健康傾向なども重要な判断材料になります。今は元気でも、70歳を過ぎたらどうなるかという中長期の視点で判断する必要があります。
繰り下げ期間中に生活資金の確保ができるか確認する
年金を繰り下げるということは、その間収入が途絶えることでもあります。たとえば、65歳で定年退職し70歳まで繰り下げる場合、5年間をどのように生活するかを具体的に考える必要があります。
貯蓄が十分にあれば問題ないかもしれませんが、急な医療費や介護費、住宅の修繕費など、予想を超える出費が発生する可能性もあります。
また、年金の代わりにアルバイトやパートなどで収入を得ると考えていても、実際には年齢や健康上の理由で思うように働けないケースも少なくありません。収入がないまま生活費がかさむと、繰り下げを選んだことを後悔する原因になります。
万が一の際は繰り下げを途中でやめられる
年金の繰り下げは、始めたら最後までやりきらなければいけないと思っている方が多いですが、実際には途中で取りやめて受給を開始できます。
たとえば、70歳で受け取る予定だったのを、67歳で受け取ることも可能です。その時点で申請すれば、繰り下げた分の増額を反映した年金を受け取れます。ただし、受給を早めることで増額率はその分低くなります。
つまり、途中で繰り下げをやめても、それまで繰り下げた期間の分はちゃんと増額されるので、完全に損をするわけではありません。
税金・社会保険料の増加に注意する
繰り下げによって年金額が増えると、その分だけ所得とみなされる金額も増えます。これは一見メリットのように思えますが、実は注意が必要なポイントでもあります。
年金受給額が増えることで、課税対象となる所得額が上昇します。すると、所得税や住民税の負担が増える可能性があります。特に、繰り下げによって増額された年金は「雑所得」として課税されるため、受給額が多いほど税金も比例して増える仕組みです。
また、見落とされがちなのが介護保険料への影響です。保険料は、前年の所得をもとに計算されるため、年金の繰り下げによって所得が増えると、保険料のランクが上がることがあります。
配偶者や遺族年金との関係で年金受給額が増えるか確認する
年金の受給戦略を立てる際に見落としがちなのが、配偶者や遺族年金との関係性です。公的年金は1人1年金が原則となっています。そのため、基本的に2つ以上の年金を同時に受けとれない仕組みですが、65歳以上になると2つ以上の年金を受けられる場合があります(※)。
- 老齢基礎年金と遺族厚生年金
- 老齢厚生年金と遺族厚生年金
65歳以上で老齢厚生年金と遺族厚生年金の両方を受け取る権利がある場合、まず自身の老齢厚生年金が支給されます。その上で、もし遺族厚生年金の額が老齢厚生年金より高い場合には、その差額分だけ受け取れます。
逆に、自身の老齢厚生年金の方が遺族厚生年金よりも高額である場合は、遺族厚生年金は全額支給停止となります。
年金の繰り下げ受給で後悔した場合の対処法

どれだけ慎重に考えて選んだとしても、実際に年金の繰り下げを行った後で「やっぱりやめておけばよかった」と感じることもあります。
そんなとき、もう取り返しがつかないとあきらめる必要はありません。繰り下げ受給には、さまざまな軌道修正の選択肢があります。
ここでは、後悔したときの現実的な対処法を紹介します。
- 繰り下げ受給の途中で請求する(繰り下げの取りやめ)
- 一括受給をする(みなし請求)
- 公的制度の活用や専門家への相談で資金を確保する
繰り下げ受給の途中で請求する(繰り下げの取りやめ)
繰り下げ受給は、申請後であっても「やっぱり今から受け取りたい」と思えば、年金の請求を途中で行えます。たとえば、70歳まで繰り下げる予定だった人が、68歳時点で急な出費や体調不良により生活費に不安を感じた場合、その時点で年金の請求をすれば、68歳分の繰り下げ増額(およそ25%※)が加算された状態で受給を開始できます。
これは、制度として自由に繰り下げ期間を決められる柔軟性を持っているからこそ可能な選択肢です。受給を開始した時点で、その後の増額は止まりますが、それまでの分はしっかり反映されるため、決して損とは限りません。
※参照:年金の繰下げ受給|日本年金機構
一括受給をする(みなし請求)
70歳を超えても年金の請求を行っていない場合、日本年金機構から「みなし請求」の案内が届くことがあります。これは、年金請求が行われなかった場合でも、原則として過去5年分までさかのぼって一括で受け取れるという制度です(※)。
つまり、受給の手続きを忘れていた場合でも、一部の年金を取り戻すことが可能です。ただし、この一括受給で支払われる金額は、請求時の増額分ではありません。請求した時点から、5年前にさかのぼった時点での増額分(※)で支給される点に注意が必要です。
さらに、一括で多額の年金が振り込まれることで、その年の所得が急増し、税金や社会保険料が跳ね上がるリスクもあります。
※参照:年金の繰下げ受給|日本年金機構
公的制度の活用や専門家への相談で資金を確保する
【まとめ】年金を繰り下げ受給すると後悔すると言われる理由とは?

ここまで、年金の繰り下げ受給の注意点や対処法を紹介してきました。
年金の繰り下げ受給は、将来に向けた備えとして非常に有効な選択肢の一つです。
しかしその一方で、予想より早く亡くなる、思ったよりお金がかかる、健康でいられる期間が短いなど、現実的なリスクも多く存在します。
だからこそ重要なのは「繰り下げる」か「やめる」かではなく、自分に合った受給タイミングを設計することです。正解は人によって異なります。資金の見通し、健康状態、家族構成、公的制度の活用方法などをふまえ、納得できる選択をしましょう。
迷っている方は、まずは65歳での受給をベースに計画を立て、その後の変化に応じて調整していくのが現実的です。年金は人生100年時代の生命線です。悩んだときは一度、無料のFP相談で話を聞いてみることから始めましょう。
