特別支給の老齢厚生年金は60代前半から受給できますが、対象者は限定的です。働きながら受け取ると減額・停止の可能性があり、失業給付との同時受給も不可。繰り下げ受給も選べないため、満額受給には働き方や受給時期の工夫が必要です。
この記事の監修者 井村 那奈 フィナンシャルプランナー
ファイナンシャルプランナー。1989年生まれ。大学卒業後、金融機関にて資産形成の相談業務に従事。投資信託や債券・保険・相続・信託等幅広い販売経験を武器に、より多くのお客様の「お金のかかりつけ医を目指したい」との思いから2022年に株式会社Wizleapに参画。
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この記事の目次
- 特別支給の老齢厚生年金のデメリットとは?
- ① 在職中だと年金が減額・停止される場合がある
- ② 税金・社会保険料負担が増える場合がある
- ③ 繰下げ受給ができない
- ④ 申請しないと支給されない
- 年金の受け取り方で迷ったら、無料FP相談を活用しよう
- 【実際どうだった?】特別支給の老齢厚生年金についての体験談
- 特別支給の老齢厚生年金について、最も不安だったことは何ですか?
- 特別支給の老齢厚生年金の受け取りについて、どのような判断をしましたか?
- 働きながら特別支給の老齢厚生年金を受給した結果、年金がカットされましたか?
- 減額を知った後、どのような対策や行動を取りましたか?
- 特別支給の老齢厚生年金の受け取りで損しないためのポイント
- 「減額・停止」ラインを把握して働き方を調整する
- 受給開始時期を慎重に選ぶ
- 税金・保険料を含めて手取りを試算する
- 【まとめ】特別支給の老齢厚生年金は“働き方”とのバランスに注意
特別支給の老齢厚生年金のデメリットとは?
- 男性 昭和36年(1961年)4月1日以前に生まれた人
- 女性 昭和41年(1966年)4月1日以前に生まれた人
- 在職中だと年金が減額・停止される場合がある
- 税金・社会保険料負担が増える場合がある
- 繰下げ受給ができない
- 申請しないと支給されない
特別支給の老齢厚生年金は、対象の生年月日の人が一定の条件を満たすと支給されます。対象者は申請すれば受給できますが、制度を理解しないまま申請すると損をするケースがあります。
① 在職中だと年金が減額・停止される場合がある
働きながら特別支給の老齢厚生年金を受け取ると、年金が減額または停止される場合があります(在職年金制度)。
在職年金制度は、厚生年金の適用事業所で働きながら年金をもらう場合に対象になります。厚生年金に加入しないで働く場合は対象外です。
厚生年金の受給額と総報酬月額相当額の合計が51万円を超えると減額の対象※1になります。51万円は2025年度の基準額で、2024年度は50万円でした※2。
なお、2026年4月(令和8年度)からは62万円※2に引き上げられる予定です。今後も改定される可能性があるので最新の情報を確認しましょう。
基本となる金額の定義
- 基本月額:加給年金額を除いた老齢厚生年金の月額
- 総報酬月額相当額: その月の給与(標準報酬月額)に、過去1年間の賞与合計を12で割った金額を加えたもの
基本月額と総報酬月額相当額の合計が 51万円以下 であれば、年金は全額支給されます。
合計が51万円を超える場合は、一部が減額されます。減額額は次の計算式で求められます。
- 減額後の支給額 = 基本月額 - (基本月額+総報酬月額相当額 - 51万円)÷2
計算例:年金基本月額15万円・総報酬月額相当額40万円の場合
- 15万円+40万円=55万円 4万円オーバー
- 4万円÷2=2万円 2万円
② 税金・社会保険料負担が増える場合がある
公的年金は雑所得に該当します。雑所得の金額は収入金額から必要経費を差し引いて計算しますが、公的年金等の場合は、収入金額から公的年金等控除額を差し引いて計算します。
公的年金等に係る雑所得の速算表(一部抜粋)
| 年齢 | 公的年金等の収入金額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 |
|---|---|---|
| 65歳未満 | 60万円以下 | 0 |
| 60万円超130万円未満 | 収入金額ー60万円 | |
| 65歳以上 | 110万円以下 | 0 |
| 110万円超330万円未満 | 収入金額ー110万円 |
※参照:高齢者と税|国税庁
公的年金等控除額は、65歳未満と65歳以上で金額が異なります。
年金の受給額により雑所得が発生すると、所得税や住民税の課税対象になります。一定額以下の年金に対しては課税されません。65歳未満の場合は60万円までは雑所得金額は0になり、雑所得に対して税金はかかりません。
年金受給額が多くなると雑所得額も増えます。他の給与所得などの合計で税金や社会保険料が増える場合もあります。
③ 繰下げ受給ができない
特別支給の老齢厚生年金には繰下げ制度がありません※。この制度は、65歳以降に受給できる通常の国民年金や厚生年金とは別のものです。
特別支給の老齢厚生年金は、本来60歳から支給されていた老齢厚生年金の支給開始年齢を段階的に65歳に引き上げる際、急激な変更による混乱を避けるために設けられた経過措置の特例制度です。
支給は原則として経過措置の対象期間内に限られ、65歳到達時点で終了する場合があります。支給終了の時期は、加入歴や受給開始年齢によって個別に異なります。
一方、65歳以降に受給する国民年金や厚生年金は、改めて請求する必要がありますが、こちらは繰下げによる受給開始の遅延が可能です。
特別支給の老齢厚生年金は、請求が遅れても5年以内であれば遡って申請し、受給は可能ですが、5年以上経過した部分は時効が成立し受給できなくなる場合があります。
例えば60歳から受給できる特別支給の老齢厚生年金を、65歳過ぎに請求した場合、1か月分ずつ時効が発生し、受給できる金額が減ってしまいます。
④ 申請しないと支給されない
特別支給の老齢厚生年金は、他の年金と同様に、申請をしなければ支給されません※。
書類が送付されても、自動的に支給が始まるわけではなく、所定の日以降に必要書類を提出する必要があります。受給権が発生すると、受給開始年齢の約3か月前に、日本年金機構から本人宛に「年金請求書」と手続き案内が送付されます。
受給権発生日は、受給開始年齢に到達した日(誕生日の前日)です。請求書は受給開始年齢になる前に提出することはできません。
年金の受け取り方で迷ったら、無料FP相談を活用しよう
老後資金や年金の受け取り方に不安を感じる方は多いでしょう。老後のライフプランに迷ったらFP相談を活用しましょう。
「公的年金はいくらもらえるのか」「不足する生活費をどう準備すべきか」など、聞きたいことを具体的にリストアップすると相談がスムーズになります。
老後にどのような生活を送りたいか(旅行、趣味など)を伝えると、より具体的な計画が立てやすくなります。
現在の収入・支出、貯蓄額を把握しておきましょう。家計簿、給与明細、預金通帳などを用意すると相談がスムーズにできます。
- 年金制度の基本と老後資金の計画
- 退職後の生活費の見積もりと資金計画
- 生活設計に基づいた資産配分の見直し
- セカンドライフに向けたキャッシュフロー管理
【実際どうだった?】特別支給の老齢厚生年金についての体験談
特別支給の老齢厚生年金を受給中または受給前の人を対象にアンケートを実施しました。受給に関してどんな不安があるか、受け取り方の判断や「年金が実際カットされたか」などを聞いてみました。
受給中、受給前の方は参考にして下さい。
※2025年11月14日~2025年11月17日時点での当編集部独自調査による
※年金の受給額や受給開始時期は、加入状況や制度改正により個人差があるためご了承ください。
特別支給の老齢厚生年金について、最も不安だったことは何ですか?

税金・社会保険料への影響、働き方、収入と年金の調整、将来の影響など、様々な不安を抱えていることが伺えます。自分の選択が最適か、悩む人も多い傾向です。
不安がない人は少数で、多くの人がそれぞれ違う悩みを抱えているようです。特別支給の老齢厚生年金は、対象者が限られるうえ、受給開始の時期や受給期間も違うため、個別の対策や判断が必要になります。
大部分の人は何らかの不安を抱えています。特別支給の老齢厚生年金は金額や受給期間は決まっているものの、働き方や失業保険受給などにより給付が停止されたり減額されたりします。
特に働き方は、今まで通りフルタイムで働けるのか、短時間労働やパート労働を選べるのか、仕事を一切やめるのかにより、税金なども大きく変わります。
家計状況もそれぞれ違いがあるので、自分がどういう選択をすべきかは難しい問題です。専門家に相談しながら検討しましょう。
特別支給の老齢厚生年金の受け取りについて、どのような判断をしましたか?

特別支給の老齢厚生年金の受け取り際に、半数以上の人が「収入や働き方」を調整しています。収入が多いと年金をカットされることを懸念し、労働時間や雇用形態を変更していることが伺えます。
正社員でなくなると、給与が大幅に減り生活に支障が出るかもしれません。通常の申請をしている人は17.4%でした。
収入が増えると一般的には税金は増えます。税金や年金カットを優先しすぎて、収入が減り生活に支障が出ることは避けたいものです。節税の仕方や年金カットを避ける方法は専門家に相談しましょう。
今後のライフプランを考えながら検討しましょう。現時点のことだけではなく、10年先20年先も見据えながら、長期目線での計画も必要です。
働きながら特別支給の老齢厚生年金を受給した結果、年金がカットされましたか?

減額を知った後、どのような対策や行動を取りましたか?
働きながら特別支給の老齢厚生年金を受給した結果、減額された人の口コミを集めました。減額を知った後、どんな対策をすべきでしょうか。
仕事をしていると年金はもらえないのではないか?もらえたとしてもカットされる額が大きいのではないかと漠然と考えている人もいます。
仕事を継続していると、給料はしっかりもらえるので、年金がカットされても気にしない、対策がわからず何もしない人がいることが伺えます。
60代女性
特に対策は取らなかった
仕事をずっと継続していたので、特別支給の老齢厚生年金を本当にもらえるのかどうかわかりませんでした。受給の案内が来たので、受け取り開始時期に遅れないように申請しました。カットされても仕事を辞めるわけにはいかなかったので、特に対策は取りませんでした。
60代男性
特に何も行わなかった
自分は特別支給の老齢厚生年金の支給対象であることがわかり、いくら受け取れるのかを調べました。金額がわりと多かったので受け取ることで、今後の年金全体にマイナスの影響が出ないか不安がありました。制度の内容がよくわからず不安を感じながらも特に何もしませんでした。
70代男性
正社員からパートになったら減額がなくなった
正社員からパートになった為、特別支給の老齢厚生年金をもらうことを決断しました。正社員の時に数か月減額されただけで、パートになったら手取り額が減り、減額はされなくなりました。パートになると、給料も減り特別支給の老齢厚生年金もわずかなので、正社員の時に比べ生活が苦しくなりました。
60代男性
年金がカットされない方法をシミュレーションした
定年後も働き続けるつもりでしたが、収入と年金の関係が理解できていませんでした。年金事務所に相談し、カットを回避できる働き方を教えてもらいました。勤務先の再雇用契約内容を確認し、年金受給+給与の合計をシミュレーションしてから働き方を判断しました。
60代男性
賞与のタイミングを会社と調整した
特別支給の老齢厚生年金を受給するとき、税金・社会保険料負担を考えて受給時期を調整する判断をしました。扶養家族・配偶者の収入との兼ね合いで受給判断は難しかったです。賞与の支給タイミングを会社と調整して年間総収入を基準以下に抑えました。
<ワンポイントアドバイス>
働きながら年金を受給する場合、満額もらうことが理想です。60代になっても正社員で十分な給与をもらえることはありがたいことです。
60代でも住宅ローンや教育費にお金が必要な人も一定数います。カットされても多くの収入が必要で働かざるを得ない人もいるでしょう。
特別支給の老齢厚生年金の受け取りで損しないためのポイント

- 「減額・停止」ラインを把握して働き方を調整する
- 受給開始時期を慎重に選ぶ
- 税金・保険料を含めて手取りを試算する
デメリットを受給開始前に確認し対策を立てましょう。
「減額・停止」ラインを把握して働き方を調整する
年金の受給予定額を把握しましょう。「ねんきん定期便」で特別支給の老齢厚生年金のおおまかな金額は確認できます。給与額には年間のボーナスも含まれるため、給与と合わせて正確に把握することが大切です。
年金と給与の合計額が、基準額(2025年度は月額51万円※)より下回れば、減額や停止される可能性は低くなります。
受給開始時期を慎重に選ぶ
特別支給の老齢厚生年金は60歳~64歳までの期間限定で受け取れるものです。生年月日により開始年齢や受け取れる期間は1年~5年と決められています。
特別支給の老齢厚生年金の対象者は、生年月日や加入歴に応じて段階的に決まっており、男性はおおむね昭和36年(1961年)4月1日以前、女性はおおむね昭和41年(1966年)4月1日以前に生まれた人が対象となります※1。
受給資格が発生すると、繰下げ受給はできません。受給できる期間の働き方を慎重に選ぶことにより、特別支給の老齢厚生年金を満額受給できます。
税金・保険料を含めて手取りを試算する
年金額だけでなく、住民税・所得税・健康保険料を含めて手取りベースのシミュレーションが必要です。
特別支給の老齢厚生年金は公的年金等控除の対象で、60歳未満は60万円まで非課税ですが、65歳以上は控除額が変わります※。一定額を超える部分には所得税・住民税が課税されるため、年金額だけでなく手取りベースでの確認が重要です。
60代前半の受給者は、再雇用やパート勤務など働き方の選択肢が複数あります。また、在職老齢年金制度による給与との調整や高年齢雇用継続給付との関係で手取り額が変動することもあるため、自分の収入状況を確認しながら最適な働き方を検討する必要があります。
【まとめ】特別支給の老齢厚生年金は“働き方”とのバランスに注意
特別支給の老齢厚生年金は、対象者や期間が限られた制度です。60代前半の収入や働き方とバランスを取りながら、損をしない受け取り方を考えてみましょう。
一時的に年金が減額されることがあっても、総合的な収入が増える可能性があれば、あえてカットを受け入れるという選択肢もあります。受け取り方や働き方で迷ったときは、専門家に相談して最適な方法を検討するのがおすすめです。