敷金の償却とは何なのでしょうか。この記事では、敷金償却費とは何なのかについて解説しています。原状回復費との関連性や、礼金と保証金との違い、敷金償却費に関して大家と交渉できるのかについても解説していますので、ぜひお読みください。
監修者 谷川 昌平 フィナンシャルプランナー
株式会社Wizleap 代表取締役。東京大学経済学部で金融を学び、金融分野における情報の非対称性を解消すべく、マネーキャリアの編集活動を行う。ファイナンシャルプランナー、証券外務員を取得。
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この記事の目次
- 敷金償却とは?原状回復費との関連性は?
- 敷金償却費は賃貸の退去時に返却されない敷金のこと
- ①敷金償却費は退去時の原状回復費や修繕費に充てられる
- ②償却額は家賃1か月分や敷金全額などさまざま
- 敷金償却費と礼金や保証金との違いは?
- 契約時に敷金の償却について賃貸借契約書を確認しよう
- 契約書の敷金償却の特約は違法ではない
- 賃貸の契約時・退去時に敷金償却費について交渉はできる?
- ①敷金償却費と礼金の合計が家賃の3.5か月分以上だと減額交渉可能
- ②敷金の償却があることを理由に他の初期費用の減額交渉をする
- ③退去時に原状回復費を請求された場合は交渉の余地あり
- コラム:敷金償却に関する交渉が成功した体験談
- コラム:敷金償却に関する最高裁判所の判決
- ①裁判における賃借人の主張
- ②裁判の結果
- まとめ:敷金償却費は退去時に返ってこない敷金のこと
敷金償却とは?原状回復費との関連性は?
こんにちは。マネーキャリア編集部・FPの西田です。
先日、20代サラリーマンの方から次のような質問を頂きました。
賃貸を契約する際、家賃以外にも敷金、礼金、敷金償却、敷金、保証費、仲介手数料などを支払いますが、退去時には契約時に支払った金額のうちいくらか戻ってくるケースもあることを知っている方も少なくないでしょう。
賃貸契約にはさまざまな費用が発生するため、その目的の正しい理解は難しく、家主と入居者の間でトラブルが起こることは多いです。
ちなみに、本記事で詳しく解説を行うように、敷金償却とは物件の原状回復に充てられる費用で、物件の原状回復にかかる費用が敷金償却を下まわっても戻ってきません。
本記事では、賃貸物件の退去時に関係する敷金償却と原状回復費について説明していきます。
本記事が賃貸生活を始める方、引っ越しを考えている方の参考になりますと幸いです。
敷金償却費は賃貸の退去時に返却されない敷金のこと
敷金償却とは入居時に支払った敷金のうち、返金されない特約のことをいいます。
敷金は退去時に返金されますが、「敷金1ヵ月分を償却する」といった特約が入居時に付いている場合において敷金1ヵ月分は返金されません。
このお金は償却金と呼ばれており、退去費用やクリーニング代などに充てられます。
①敷金償却費は退去時の原状回復費や修繕費に充てられる
敷金償却費は、次に挙げる費用の支払いに主に充てられます。
- ルームクリーニング・清掃
- 原状回復費
- 修理費・工事費
- 壁紙の修復
- 鍵の取り換え
- 水まわりの消毒
- 網戸のはりかえ
償却金は退去時の原状回復費や修繕費に充てられます。
実際にかかった原状回復費が敷金償却費を下まわったとしても、契約者に残額は返金されません。
きれいな状態で退去し、原状回復費が少額ですんだとしても、残高は返金されないことを覚えておいてください。
②償却額は家賃1か月分や敷金全額などさまざま
敷金償却額は家賃1か月分、敷金全額など、物件や大家によって異なります。
賃貸契約を結ぶ際は家賃、礼金、保険料などだけではなく、敷金償却費を見落とさないようにしましょう。
償却費によって、賃貸マンションや賃貸アパートにかかるトータルの金額も変わりますので、いくつかの物件を比較検討して決める際は償却費も考慮して検討してください。
敷金償却費と礼金や保証金との違いは?
敷金償却費とは、前述したとおり、物件の原状回復に充てられる費用のことで、返金されないお金です。
礼金は家主に対するお礼を意味するお金のことをいいます。
家主への感謝を表すお金でもあるため、礼金が返却されることは通常ありません。
礼金は家賃の1ヵ月程度の金額とされている物件が多いですが、礼金の金額に法的決まりがないために、金額は物件によるともいえるでしょう。
最近では、礼金不要の物件も多いですが、新築、人気物件、人気エリアにおいては礼金がかかると思っておいた方が安心です。
保証金とは入居時に支払うお金で、敷金、礼金などが混ざったお金のことをいいます。
保証金のなかに償却されるお金と返金されるお金が交じり合っています。
退去時に戻ってくるお金が分かるため、この時にトラブルが起こることも少なくありません。
保証金の金額は、家賃の3ヶ月~6ヶ月分が相場といわれています。
契約時に敷金の償却について賃貸借契約書を確認しよう
敷金償却費は賃貸契約書で確認でき、以下のように明記されています。
- 退去時、敷金2ヶ月分のうち1ヶ月分を償却する
- ペットを飼育した場合、敷金2ヶ月分をすべて償却する
賃貸を契約する際は、「敷金はいくら償却されるのか」、「どのようなケースにおいて償却されるのか」を必ず確認してください。
物件や大家によって、敷金償却費の取り方は違います。
更新の度に敷金の何十%かが償却される契約もあります。
この場合は、以下のように明記されています。
- 更新の度に敷金の20%を償却する
更新の度に敷金が償却される際は、当然ながら住む年数が増えるにつれて、償却される金額も多くなります。
短期的に物件を借りたい方には、おすすめの償却方法です。
償却費は家賃の1か月から3か月分がベターとされており、これ以上になると割高という印象です。
賃貸物件を契約する際は敷金償却費が必要なのかに加えて、敷金償却費の金額を確認しましょう。
契約書の敷金償却の特約は違法ではない
敷金償却は入居者にとって負担も重く、見方によっては不条理な特約といえます。
原状回復などにかかった費用が敷金償却費を下まわっても、残高が戻ってくることがないためです。
入居後に、入居者と家主の間で敷金償却について争われることも珍しくなく、裁判沙汰になることもあります。
しかし、敷金償却は違法ではないため、入居後に敷金償却の支払いを拒否することは難しいです。
敷金の償却は敷引特約などと呼ばれ、その内容は「賃貸借契約の終了時に修繕費の負担問題とは関係なく、貸主が預かった敷金から一定額を控除する旨の特約」を意味しています。
実際、裁判で敷金償却について争われた際に、国土交通省の『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』に基づき、「高額すぎない限りは有効」という判決が出されました。
日本において家賃3か月分程度の償却金であれば問題ないという見方がされています。
家賃4か月以上の償却金を請求される場合は、契約を見合わせる、もしくは不動産会社、弁護士などに相談してください。
賃貸の契約時・退去時に敷金償却費について交渉はできる?
敷金償却費は高額でない限りは法的に認められていますが、敷金償却費について「納得できない」という方や、退去時に「自分は部屋を汚していないのに、お金が戻ってこないのはおかしい」と思われる方も少なくないのが現状です。
敷金償却費は入居者にとって不利な条件になりますが、家主にとっては入居者の退去後はなにかと費用がかかりますし、入居者との原状回復費をめぐるトラブル防止のためにも不可欠な契約なのです。
賃貸の契約時、ないし退去時に敷金補償費について交渉できるのかみていきましょう。
①敷金償却費と礼金の合計が家賃の3.5か月分以上だと減額交渉可能
敷金償却費の減額交渉は、償却費と礼金が家賃の3.5か月以上というケースにおいて可能です。
敷金償却費があまりにも高額に設定されている場合、消費者保護(入居者保護)に基づいて無効になるケースがほとんどです。
国交省の『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン 事例42』には次の文言が明記されています。
「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引き契約は、(中略)敷引き金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近隣同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなどの特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である」
償却金の額については法律で定められておらず、家主が償却金を異常に高く設定したとしても罪に問われませんが、法的にその金額が無効になることがあります。
続いて、なぜ、「家賃の3.5か月以上」が高額と見做されるのかについて説明していきます。
家主と入居者の間で敷金償却費について争われた判例として、平成23年の最高裁判例が挙げられます。
この判決では、入居者(被告人)の主張は認められませんでしたが、ポイントは以下になります。
国交省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン 事例42』には、次の文言が記されています。
「本件契約における賃料は9万6,000円であって、本件敷引金の額は、上記経過年数に応じて上記金額の2倍ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて、賃借人Xは、本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払い義務を負う他には礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。
そうすると、本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない」
ここから、敷金償却費用は賃貸の3.5倍(3.5か月)に留まっていれば、高額でないと見做されていることが分かります。
あわせて、この裁判では、入居者に対して更新料以外の礼金などの支払いが一切なかったこともポイントになっています。
敷金償却費の上限額に関して法律で定められているわけではありませんが、平成23年の最高裁判例を基準にして考えると、現在の日本では敷金償却費と礼金の合計が家賃の3.5か月分以上だと高額であり、減額交渉可能だといえるのです。
②敷金の償却があることを理由に他の初期費用の減額交渉をする
賃貸契約にかかる初期費用や退去時の費用について、多くの人がよく分からないままに合意しています。
「敷金礼金のない物件に住みたい」と考えている方であっても、それ以外にかかる契約時の費用に関しては見落とし、後から「これはなんのお金だろう?」と思いながらも、うやむやな理解で契約に同意している方は少なくないです。
敷金償却がある場合は、類似した項目の請求がなされていないかをよく確認してみてください。
敷金償却とは退去時の物件の原状回復に充てられる費用ですが、敷金償却に類似する請求がある場合は、それを指摘することで初期費用を減額できる場合もあります。
契約時に、「敷金償却がありますが、〇〇はこの費用では補えませんか?」などと一言発するだけで、初期費用を大きく減額できることも少なくないです。
③退去時に原状回復費を請求された場合は交渉の余地あり
敷金償却の意味を理解していないと、二重請求されても気づかないということが起こり得るので注意をしよう。
敷金償却費は原状回復費用に充てられるお金であるため、退去時に原状回復費を請求された場合は二重請求を疑いましょう。
壁紙のはりかえ、水まわりの消毒などといった名目でお金を請求された場合、「敷金償却で補えませんか?」と尋ねてみるようにしてください。
コラム:敷金償却に関する交渉が成功した体験談
敷金償却で賃貸マンションを契約したBさんから、経年劣化ではない壁紙の汚れがあったため、壁紙の張り替え代として3万円を退去時に請求されたという相談を受けたことがあります。
Bさんは、「敷金償却での契約」「返す予定のない敷金の契約など無効」「償却の意味を理解せずに契約してしまった」ことを根拠にし、3万円の支払いを拒否したいとのことでした。
敷金償却は「敷金は全額原状回復費に充てる、残額分に限っては家主の収入」というものですので、壁紙の張り替えは敷金全額償却からの支払いが妥当と考えられます。
最終的に、Bさんは3万円の支払いを拒否することに成功しました。
コラム:敷金償却に関する最高裁判所の判決
平成23年3月24日、最高裁で敷金償却について争われました。
敷引き特約が消費者契約法第10条により、無効となるか否かの判断がはじめて最高裁判所でなされたのです。
事案は以下の通りになります。
- マンション一室の賃貸借契約
- 月額賃料 9万6000円
- 保証金(敷金)40万円
- 敷引き特約 年数に応じて変更。1年未満の終了は18万円の敷引きとなり、5年以上経過しての終了は34万円の敷引き。その間は1年経過する度に差引額が増加となる。
結論を先に言うと、最高裁の判決において賃借人の主張は認められず、敷引き特約は有効と判決が下されました。
以下、賃借人の主張と裁判の判決をみていきましょう。
①裁判における賃借人の主張
裁判における賃借人の主張のポイントは、以下の4つになります。
- 賃貸借では損耗等に係る投下資本の減価の回収は、通常減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませて、その支払いを受けることにより行われるもの
- 賃借人に対して賃料とは別に通常損耗等の補修費用を負担させる特約は、賃借人に二重の負担を負わせる
- 消費者の利益を害する
- 消費者契約法10条により無効
賃借人は、損耗等に係る投下資本の減価の回収は必要分を要求すべきと考えており、必要な金額以上の敷金償却を無効と主張しています。
また、賃料とは別に通常損耗等の補修費用を請求することは、消費者の二重負担だと考えており、これらのことから消費者の利益を害すると考えます。
②裁判の結果
最高裁は敷金償却は有効であると判決を下しました。
その根拠は、以下のようになります。
- 賃料は月額9万6000円であって、本件敷引きの額は上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっている
- 契約が更新される場合に1ヶ月分の賃料相当の更新料の支払義務を負うほかには、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない
この二つのポイントが考慮され、最高裁判決では「消費者契約法10条により無効であるということはできない」と判断され、敷引き特約の有効性が認められました。
まとめ:敷金償却費は退去時に返ってこない敷金のこと
賃貸契約にかかる費用はさまざまな種類があり、かつ法律で明確に規定されていないものも多く、困惑を招いたり、あいまいな理解のままで契約合意したりするケースが少なくありません。
特に、入居者と家主の間で問題になるのが敷金償却費です。
敷金償却費とは、退去時の原状回復、ルームクリーニングなどに充てられる費用ですが、これらにかかる料金が敷金償却費を下まわっても、入居者に残金が戻ってくることはありません。
敷金償却費と勘違いされやすい名目として敷金があります。
敷金とは家主が賃貸契約時に入居者から預かるお金ですが、敷金は退去時に原状回復費などが差し引かれて返金されます。
敷金償却費を敷金と勘違いしてしまった場合、戻って来ると思っていたお金は返金されないので気を付けてください。
敷金償却費は入居者にとって不条理なものとしても捉えられますが、これがあることによって部屋を比較的自由に使える場合があります。
たとえば、ペット可の物件では賃貸借契約の際に、ペット飼育の償却金として特約がある場合があります。
賃貸物件ではペットが好まれないことが多いので、敷金償却費がかかったとしてもペットと暮らせる物件を求める方もいらっしゃいます。
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