4月から6月に残業のしすぎは損する?手取りが減ってしまう?のサムネイル画像

「4月から6月に残業をしない方が良いよ」という話を聞いたことがあるでしょうか?これは4月から6月の給与が年間の社会保険料の計算の基準になるため、手取りが減ってしまうからこう言われています。今回は「4月から6月に残業をしない方が良いか」の真偽について解説します。

記事監修者「谷川 昌平」

この記事の監修者谷川 昌平
フィナンシャルプランナー

東京大学の経済学部で金融を学び、その知見を生かし世の中の情報の非対称性をなくすべく、学生時代に株式会社Wizleapを創業。保険*テックのインシュアテックの領域で様々な保険や金融サービスを世に生み出す一歩として、「マネーキャリア」「ほけんROOM」を運営。2019年にファイナンシャルプランナー取得。

この記事の目次

目次を閉じる

4月から6月、残業しすぎると社会保険料を多く取られる?

皆さんは「4月から6月に残業しすぎると社会保険料が高くなる!」という話を聞いたことはありませんか?

結論から言えば、正しくもあれば、大きな勘違いもある、ということになります。(さて、どういうことなのでしょうか?)


正確にまとめると、堅難しい記事になってしまうため要点は正しく、詳細はリンク先の公的機関の情報を見るなどして理解を深めると良いと思います。


  • 今回の記事の対象
    20歳~60歳の給与をもらう会社員の方で、社会保険に加入している方


今回はなぜ4月~6月に残業すると社会保険料が多く取られるのか(説)についてみていきます。

「4月から6月にに残業をすると損」の論理について

事実として、4月から6月に(他の月よりも多く)受け取る給与が増えると、年間の社会保険の計算に影響を与え、手取りが減ってしまいます。


「4月から6月にに残業をすると損」の論理のまとめ

  1. 4月から6月に受け取る給与が増える
  2. 4月から6月に受け取る給与が年間の「標準報酬月額」を計算する根拠になる
    「標準報酬月額」については後ほど解説します。
  3. 「標準報酬月額」から年間の社会保険料の根拠が決定されます。
  4. 社会保険料が増えると、手取りが減ってしまいます。
  5. ただし、年末調整・確定申告で多く払った分は返ってきます。(少なく払っている場合は追加で払わないといけないです。)


ただ、注意が必要なのは支払われる報酬は基本的に前月分の報酬となる点です。

「4月から6月に受け取る給与」であるため、4月から6月の残業時間ではなく、3月から5月の残業時間が報酬に反映されることになります。 3月から5月に残業したことで、4月から6月の報酬が増え支払う社会保険料が多くなります。 

(補足)社会保険とは?社会保険の基礎についても解説

社会保険とは、厚生年金と健康保険、介護保険、雇用保険・労災保険の5つです。


社会保険の概要

社会保険の概要

社会保険のうち厚生年金と健康保険、40歳以上の方は介護保険の社会保険料は4月から6月の3か月の報酬平均額を基準にその年の9月から翌年の8月の支払う社会保険料が計算されます。

社会保険料の計算の仕方

社会保険料は労使折半になっています。


社会保険料の全額を払うわけではなく、会社負担と本人負担に分けて計算しなければなりません。そのため計算にあたって、本人分の負担を計算するときは1/2する必要があります。


基本的に社会保険料は標準報酬月額×保険料率で計算されます。

  • 厚生年金
    標準報酬月額×18.30%×1/2
  • 健康保険
    標準報酬月額×健康保険料率×1/2
  • 介護保険
    標準報酬月額×介護保険料率×1/2

なお健康保険と介護保険に関しては「協会けんぽ」「健康保険組合」があります。

ご自身が協会けんぽなのか、健康保険組合なのかをお手元の健康保険証の保険者名称をみて確認しましょう。加入している健康保険によって健康保険料率は異なるため、計算方法は人それぞれ異なります。


介護保険は同じ協会けんぽであっても、都道府県によって保険料率が違います。

全国健康保険協会の健康保険料率はこちらから誰でもみられます。 


健康保険組合の方も「健康保険組合の名称 保険料率」で検索すると調べることが可能です。

(補足)標準報酬月額とは?

社会保険料の計算の仕方で「標準報酬月額」と聞きなれない言葉が出てきました。


標準報酬月額とは、社会保険料を計算するための基準となる金額です。


標準報酬月額は4月から6月の報酬の平均から標準報酬月額表を使って算出されます。


自分の標準報酬月額を知りたい時は、日本年金機構や全国健康保険協会のホームページに掲載されている標準報酬月額表をもとに調べられます。


また一番簡単に調べる方法は、誕生月に届くねんきん定期便です。

年金定期便には直近13か月分の標準報酬月額が掲載されています。


ちなみに健康保険では50等級、厚生年金では32等級まであります。

等級が上がれば上がるほど支払う社会保険料は高くなります。


標準報酬月額が決まるタイミングは大きく分けて下記の3つです。

  1. 入社が決まったとき(資格取得時の決定)
  2. 4月から6月までの標準報酬月額が算出されたとき(定時決定)
  3. 報酬が大きく変わったとき(随時改定)

関連記事

標準報酬月額が増えるメリット

ここまでみていくと4月から6月に残業してしまうと結果的に支払う社会保険料が多くなってしまいデメリットしかないように感じられます。

しかし話はそう単純ではありません。


標準報酬月額が増えることでメリットもあります。

例えば厚生年金保険料は短期的にみれば社会保険料が増えますが、長期的にみると将来受け取る厚生年金が増えます。

給与収入がなくなったあとのセカンドライフでは年金が収入のおおきな柱になります。

そのため、働いているときに厚生年金保険料を多く払っておくことで将来の収入を増やせます。


健康保険料に関しても、病気やケガなどで働けなくなった際の傷病手当金や出産手当、育児休業給付金は標準報酬月額をもとに受給額を計算します。

標準報酬月額が多ければその分受給額が増えます。


このように標準報酬月額が増えるのはデメリットだけでなく、メリットもあります。



本当に4月から6月に残業しすぎると損なのか

ここまで社会保険料の計算方法や、なぜ4月から6月で残業をすると社会保険料を多く支払うことになるのかにみていきました。


社会保険料の計算という一面だけをみると残業代が増えて、標準報酬月額が高くなることで支払う社会保険料も多くなるので損に感じるかもしれません。


一方で標準報酬月額が増えることで、将来受け取る厚生年金や何かあった際の健康保険で受け取れる給付金の金額が増えるメリットもあります。


また社会保険料は最終的に年末調整や確定申告の際に社会保険料控除として扱われます。


社会保険料控除される金額が多ければ、所得税や住民税といった納める税金も少なくすみます。


さまざまな側面から考えると残業しすぎることが必ずしも損ではないことがお分かりいただけたのではないでしょうか。