生活保護を受けているときはいくらまで貯金ができるのでしょうか。この記事では、生活保護受給者に貯金額の上限はあるのか、また生活保護受給中は貯金ができないのかについて解説しています。貯金による生活保護の不正受給についても紹介しているので、ぜひお読みください。
監修者 井村 那奈 フィナンシャルプランナー
ファイナンシャルプランナー。1989年生まれ。大学卒業後、金融機関にて資産形成の相談業務に従事。投資信託や債券・保険・相続・信託等幅広い販売経験を武器に、より多くのお客様の「お金のかかりつけ医を目指したい」との思いから2022年に株式会社Wizleapに参画。
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この記事の目次
- 生活保護を受けていて貯金するときの上限はいくらまで?
- 生活保護受給中の貯金額に上限はない!貯金できないはウソ!
- 生活保護受給中に貯金できる条件は?
- 条件①貯金のことをケースワーカーが把握している
- 条件②就職など生活保護をやめるための準備金である
- 条件③子どもの進学や教育費のための貯金である
- 条件④老後や死亡したときのための貯金である
- 貯金額の上限を40万円とするなど自治体独自の基準もある
- 生活保護受給者が運転免許取得のための貯金はできる?
- 生活保護受給者の貯金額の調査はいつ行われる?
- ①生活保護受給者は年に1度だけ資産申告をする機会がある
- ②ケースワーカーに疑われると貯金額の申告を求められる
- 貯金がバレると生活保護の打ち切りになることもある
- 生活保護受給者が貯金を隠すことはおすすめしない
- 貯金を隠す方法①タンス貯金をする
- 貯金を隠す方法②隠し口座に貯金をする
- 生活保護と貯金や資産に関する裁判や判決を紹介
- 貯金があると生活保護を受け始めることができない!
- 売却できる資産があると生活保護を受けることができない!
- まとめ:条件付きで生活保護受給中も貯金ができ上限額はない
生活保護を受けていて貯金するときの上限はいくらまで?
こんにちは。マネーキャリア編集部・FPの西田です。
先日、生活保護を受給されている方から次のような質問をされました。
生活保護を受給している間は貯金ができないと思っている方も多いですが、生活保護受給者も貯金することは可能です。
また、生活保護受給者に認められる貯金の上限については、条件・目的などによってはありません。
生活保護とは、何らかの事情を抱えていて働くことが困難な人に支給されるお金です。 働けない人たちの最低限の生活を保障するために、税金などから支払われます。
そのため、生活保護を受けている方には、貯金を行うにあたっていくつかの制約や規則はあります。
本記事では、生活保護を受けている方が貯金する方法や条件について解説していきます。
本記事が、生活保護を受給している方や、生活保護をこれから受ける方の参考になりますと幸いです。
生活保護受給中の貯金額に上限はない!貯金できないはウソ!
「生活保護受給者は貯金ができない」「生活保護を受給していたら、手元に置けるお金は数千円~数万円程度でしょう」と思われている方も少なくありません。
生活保護受給者であっても、貯金できますし、客観的に見て納得できる理由があれば貯金額に条件はありません。
しかし、生活保護として支給されているお金は最低限の生活費ですので、ここからいくら貯金にまわせるかは受給されている方次第です。
実際に生活保護を受給されている方のほとんどが、生活保護費で毎月の生活をまかなうだけで精一杯の状態ですので、貯金にまわすのは難しい状況の方が多いのが実情です。
生活保護受給中に貯金できる条件は?
生活保護は何らかの事情があって働けない方に、毎日の生活や住む場所を必要最低限保証するための制度です。
納税者が一生懸命に働いて納めたお金の一部が、生活保護費に充てられていることも事実です。
生活保護を受給している方たちにはお金の使い方について、いくらかの制約があります。
生活保護受給者が貯金できる4つの条件を確認していきましょう。
条件①貯金のことをケースワーカーが把握している
生活保護を受給している期間は、ケースワーカーとお金の出入りについてある程度は共有しなければいけません。
保護費の一部をこれから貯金しようと決めたら、ケースワーカーに貯金することを伝える必要があります。
さらに、どのくらいの貯金が貯まったのかを面談などで質問されることも、場合によってはあり得ます。
貯金の目的、貯金残高をケースワーカーと共有した状態での貯金です。
これを共有せずに貯金した場合、いかなる理由があってもルール違反になります。
条件②就職など生活保護をやめるための準備金である
生活保護とは、いつか自立して暮らせる日がくることに期待を込めて支給されるお金でもあります。
ケースワーカーが頻繁に面談を行い、就労支援などを行う理由も、自立を目的としています。
生活保護費を就職活動にかかる費用、及び自立するために必要なこと全般に充てるお金として貯金することは認められます。
たとえば、以下のような目的の貯金であれば、許可はほぼおりるでしょう。
- 就職活動にかかかる交通費
- 履歴書、証明写真代
- 就職に使うスーツ代
- 就職につながる勉強をするためのスクールの費用、参考書代など
- 資格の受験料
- 自立に伴う引っ越し(要相談)
- 結婚費用(要相談)
条件③子どもの進学や教育費のための貯金である
生活保護受給中でも、子どもの将来のためにかかる費用を目的にする貯金は認めてもらえます。
中学校、高校に進学するにあたって制服、体操服、教材などの費用がかかりますし、大学や専門学校に進学するとなれば50万円~100万円前後のお金がかかります。
子どもが健全な学校生活を送る上でかかる費用、子どもがより良い将来を切り拓くためにかかるお金、大学進学費用などを貯めることは認めてもらえます。
生活保護を受給されているご両親をもつ高校生のなかには、アルバイトをされている子も多いです。
高校生がアルバイトをして学費や将来のためのお金を貯金しても、生活保護は減額にはならないので覚えておいてください。
お子さんが大学に進学した場合、20歳に満たなくても世帯分離が行われますので、生活保護の対象から外れます。
これまで支給されていたお子さん分の生活保護費は停まるので、受け取れる保護費は少なくなります。
お子さんをお持ちで生活保護を受給されている方には、生活扶助、住宅扶助、医療扶助などのほかに教育扶助があります。
また、中学卒業までは児童手当、高校生には生業扶助が支給されます。
お子さんの将来のために、どのようなお金が支援されるのか知っておくとよいでしょう。
条件④老後や死亡したときのための貯金である
老後資金問題が話題になっている今日において、生活保護を受給されている方のなかにも、老後のことが気になる方も多いでしょう。
生活保護受給者にも、老後や死亡したときのための貯金は認められます。
たとえば、以下に充てる費用が老後や死亡したときのための貯金に該当します。
- 老後にかかる費用全般
- 生活保護受給者自身の葬儀
- 生活保護受給者が行う葬儀
貯金額の上限を40万円とするなど自治体独自の基準もある
生活保護の審査方法や生活保護費の利用に関するルールなどは、各自治体によって異なります。
A市では上限なしで認められる貯金であっても、B市では貯金額に上限が設けられているといったこともあります。
自治体によっては、生活保護受給者の貯金額の上限を40万円にするなど独自の基準を設けています。
生活保護受給者の貯金額について数十万円を上限としている自治体の場合、電化製品の買い替えに充てる費用などが貯金の目的として想定されています。
生活保護受給者が運転免許取得のための貯金はできる?
生活保護受給者が運転免許取得のための貯金をすることは可能です。
ただし、条件があり、就職や自立に関係する場合に限ります。
生活保護を受給している方の就労活動支援にも運転免許取得はありますので、運転免許取得のための貯金も就労活動支援の一貫としても見做せるでしょう。
「趣味で車を保有したい」、「運転免許証を身分証明書として使いたい」、「車があれば、日常生活になにかと便利だから」といった理由では、運転免許取得のための貯金は認められません。
生活保護受給者の貯金額の調査はいつ行われる?
市役所は生活保護受給者の預金口座の中身を調査する権利をもっています。
この権利は生活保護法第29条に基づいており、法律でも認められているのです。
生活保護の申請を受けたら、市役所は金融機関に申請者について預金調査を行います。
生活保護の支給が開始されたあとも、年に1回以上は預金額を申告、ないし場合によっては調査されます。
以下、生活保護受給者の貯金額の調査について、詳しく解説していきます。
①生活保護受給者は年に1度だけ資産申告をする機会がある
生活保護受給者には、年に1度、資産申告書を提出する義務があります。
資産申告書に記載した資産が多い場合、生活保護費の減額や廃止になることもあります。
2015年に「『生活保護法による保護の実施要領の取り扱いについて』の一部改訂について」という通知が行われました。
これ以後、年に一度、生活保護受給者には資産申告書の提出が求められるようになったのです。
資産申告書において該当する資産には、預貯金、現金、不動産、生命保険、自動車などが含まれています。
申告書において、資産を意図せずに漏らしてしまった場合も、なんらかのペナルティに該当することがあるので気を付けてください。
また、恋人名義の口座や子ども名義の口座にお金を隠す人も時々いらっしゃいますが、こうした行為は違法です。
保護費が打ち切られるだけではなく、なんらかの罰を受けることもあり得ます。
②ケースワーカーに疑われると貯金額の申告を求められる
ケースワーカーは、生活保護受給者のお金まわりに違和感を覚えることも時々あります。
こうしたケースにおいて、貯金額の申告が求められることもあります。
たとえば、ケースワーカーとの面談時にブランドもののアクセサリーを身に付けていたり、自宅に高級ホテルに宿泊した痕跡と思えるような物があったりした場合などに該当します。
あるいは、高額な電化製品や最新の人気ゲームが自宅に置いてある場合は、入手経緯など質問されるかもしれません。
貯金額の深刻を求められた際に、申告内容と相違があった場合やお金を隠し持っていたことが発覚した場合は、生活保護が廃止されます。
さらに、これまでに受給した生活保護費の返還を求められることもあるので注意しましょう。
貯金がバレると生活保護の打ち切りになることもある
生活保護の受給期間中であっても、ケースワーカーに合意をもらえれば、貯金することはできます。
しかし、無断で貯金をしたり、貯金残高を隠したり、あるいは他人名義の口座にお金を隠し持っていたりした場合は、ペナルティの対象となります。
無断貯金によって、生活保護の打りもあり得ます。
生活保護法第78条には「不正受給していた場合は、申告していない収入に対して増額して徴収する」と定められていますので、罰則が付くことも考えられます。
不正受給していた場合、増額徴収などを終えて、生活が困難な状況にあれば、生活保護を改めて受けることが可能です。
生活保護受給者が貯金を隠すことはおすすめしない
「生活保護受給者が貯金を隠していた」というニュースは頻繁に報道されています。
生活保護受給者のなかには隠れて貯金をしている人も一部いますが、ニュースの報道からも分かるように、ケースワーカーや市役所に、お金を隠し持っていることを突き止められています。
貯金を隠す行為は不正受給に該当し、場合によっては詐欺罪に該当することもありますので注意してください。
以下、生活保護受給者が貯金を隠すやり方としてよくある2つの方法をみていきましょう。
どちらの方法も不正行為に該当しますので、真似しないようにしてください。
貯金を隠す方法①タンス貯金をする
生活保護を受けている方のなかには、「口座にお金を入れておいたらバレるけど、タンス預金なら大丈夫だろう」と考える方も一部いらっしゃいます。
しかし、タンス預金も禁止されていますので絶対にやめてください。
生活保護受給者に対して、ケースワーカーは家庭訪問を頻繁に行います。
ケースワーカーには訪問先の家庭のタンスや引き出しなどを勝手にあける権利はありません。
しかし、タンス預金がなんらかのかたちで、ケースワーカーに発覚したケースは多いです。
お金を隠し持っていた(タンス預金)ことが分かれば、生活保護は廃止されるだけでなく、受給したお金の返還が求められます。
貯金を隠す方法②隠し口座に貯金をする
生活保護を受給する際、日本国内のすべての金融機関が申請者名で調査対象となります。
そのため、不適当な入金、過度の蓄財などは明るみになることがほとんどです。
生活保護費の一部ないし、生活保護申請前に保有していたお金を他人名義の口座や子供名義の口座に入れる人も少なからず存在します。
他人名義の口座を作成し、管理を行うことは違法ですので注意してください。
隠し口座が明るみになったら、生活保護が打ち切られ、さらにはこれまでに受給した保護費の返還を求められることもあります。
生活保護と貯金や資産に関する裁判や判決を紹介
山口春子による研究論文生活保護の「必要即応の原則」に関する一考察において、加藤勝訴の事件について言及されています。
加藤は胃潰瘍、リウマチなどの身体の不調によって働くことができず、生活保護を受給していました。
彼は老後の資金に不安を抱き、介護費用、不時の出費に備えて生活を切り詰め、支給された保護費と障害年金を蓄え、81万円を保有していました。
この事件では、生活保護受給中の81万円の扱いが問題になりました。
市役所は保護費を減額する保護変更処分を行い、さらに預貯金の一部は墓石購入などの用途に限定する指導を行いました。
加藤は81万円を活用すべき資産として見做されたことに対して何度か審査を起こしましたが、加藤の主張は最終的に認められませんでした。
全ての裁判が終わったのは、1993年でした。
判決のポイントは主に、以下になります。
- 預貯金の保有は認められておらず、まずは生活費に充てるべきだ
- 現実の生活に対応するための預貯金はある程度認めざるをおえない(クーラーなどの買い替え費用)
- 生活保護の趣旨に反する貯金は認められない
加藤の貯金理由は老後のためであり、道理に適っているかのように思われます。
しかし、1900年代は特に、生活保護において必要即応の原則が強調されていたため、現在必要なお金ではなく、未来のためのお金として保有することは認められていなかったのです。
貯金があると生活保護を受け始めることができない!
申請時に貯金額が最低限の生活費を超えている場合は、生活保護の受給資格がありません。
生活保護の受給資格を得られる貯金額は、世帯の最低生活費の半額と決まっています。
たとえば、最低生活費が15万円の世帯なら7.5万円の貯金までは認められます。
受給にあたって貯金が認められない理由は、「生活保護を受ける前に、まずはその貯金で生活可能である」と捉えられるからです。
生活保護を受けるためには、貯金を使い切ったあとに、申請する必要があります。
売却できる資産があると生活保護を受けることができない!
不動産(持ち家など)を保有している場合、生活保護を受けられないことが多いです。
まずはそれらを売却し、それによって得られたお金を生活費に充てるべきだと見做されるからです。
生活保護がすぐに必要で、持ち家を持っている場合、売却の決定前であっても、生活保護の受給を開始できることがあります。
この場合、持ち家の売却活動を行っており、かつ不動産査定をとったこと、不動産会社と契約を結んだことなどを証明する必要があります。
しかし、以下の場合は、持ち家が認められます。
- 住宅ローンが付いていない家
- 資産価値の低い家
- 家が生活するにあたって必要不可欠な場合
- 家が自立にあたって必要不可欠な場合
生活保護を受給するにあたって、資産である家は必ず手放さなければならないと考えている方も多いですが、実際は上記に該当する場合などは家の保有は認められます。
持ち家がある方は、自分の抱える事情などを福祉事務局にまずは相談してみてください。
車に関しては、基本的に保有は認められません。
車を売却し、そのお金をまずは生活費に充てることができるからです。
また、車には維持費、税金、さらには事故を起こした場合は賠償金などの支払いが求められ、さまざまなお金がかかります。
生活保護を申請する際に、これらの支払い能力がないと見做されるのです。
しかし、車においても例外的に認められることがないわけではありません。
就職活動や日常生活にどうしても必要不可欠な場合に限ってのみ、車の保有を認められます。
宝飾品、ハイビジョン薄型テレビなどは資産に該当し、かつ贅沢品として見做されるため、生活保護を受給する前に売却を指導されます。
まとめ:条件付きで生活保護受給中も貯金ができ上限額はない
「生活保護受給者が貯金できるか」という問題は、2chのスレや知恵袋などでも話題になっています。
生活保護を受けている期間も、客観的に納得のいく目的の貯金であれば認められます。
たとえば、自立のための準備金、子供関連の費用、老後資金などが該当します。
一方、ブランド品の購入や高価レストランなどでの食事を目的にした貯金は認められません。
また、一部の自治体では貯金の上限があるものの、ほとんどの自治体では貯金額に上限はありません。
生活保護受給中に貯金を行う際は、貯金の目的、貯金額などを担当ケースワーカーと共有する必要があります。
無断で貯金を行い、それが明るみになった場合は、生活保護の打ち切り、今まで受給してきた生活保護費の返還といったペナルティが課されることもあります。
生活保護は何らかの事情で働けない方や、就労困難な時期をサポートするためのお金です。
生活保護の目的からかけ離れたお金の使い方をするのは絶対にやめましょう。
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