労災上乗せ保険(労働災害総合保険)とは?政府労災保険との違いは?のサムネイル画像

内容をまとめると

  • 労災上乗せ保険(労働災害総合保険)は、政府労災保険で不足する補償を補う法人保険
  • 法定外補償保険と使用者賠償責任保険を組み合わせた労災上乗せ保険(労働災害総合保険)
  • 任意で加入する保険のため、特約を付帯することで補償範囲を拡大できる
  • 労災上乗せ保険(労働災害総合保険)なら、事業主や役員も補償の対象
  • 保険料は損害保険料として全額損金算入が可能
  • 政府労災保険が適用されなければ、労災上乗せ保険(労働災害総合保険)も支払われない
  • 法人保険や事業のリスク対策の相談なら専門家のいる「マネーキャリア」がおすすめ!

労災上乗せ保険とは、労災保険制度(政府労災)の補償範囲外となる範囲をカバーするための保険です。労災上乗せ保険は、法定外補償保険と使用者賠償責任保険の2種類が組み合わされて提供されている保険です。建設業など労災事故のリスクが高い業種には、必須の保険と言えます。

記事監修者「金子 賢司」

監修者金子 賢司
フィナンシャルプランナー

東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。<br>以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。 <保有資格>CFP

この記事の目次

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労災保険制度(政府労災)について


通勤や仕事が原因で怪我や病気、死亡や障害状態となった場合に、必要とされる給付をおこなう補償が政府労災保険です。


原則、正社員やアルバイトなど、雇用形態にかかわらず、1か月以上の雇用する見込みがあり、週20時間以上はたらく場合は、政府労災保険に加入しなければなりません。


労働者災害補償保険法に基づいた政府労災保険は、すべての労働者の福祉増進を目的としており、雇用する企業や事業主が保険料を全額負担し、以下のような補償があります。

  • 医療費の給付がおこなわれる「療養補償給付」
  • 働けなくなったとき4日目から給与の約80%が給付される「休業補償給付」
  • 第1級~7級に該当する障害が残ったときに給付される「障害補償年金」
  • 第8級~14級に該当する障害が残ったときに給付される「障害補償一時金」
  • 死亡した場合、遺族に支払われる「遺族補償年金」
  • 遺族補償年金を受け取る遺族がいない場合に支払われる「遺族補償一時金」
  • 死亡した場合の葬祭費を給付する「葬祭給付」
  • 1年6ヶ月を超えても完治しない場合に給付される「傷病補償年金」
  • 介護状態となった場合に給付される「介護補償給付」
  • 健康診断で脳・心疾患に関連する異常が見つかった時の「二次健康診断等給付」

ただし、労働者を守るべき制度であることから、事業主や役員などは補償の対象外となるので注意しておきましょう。


通常、事故や病気で労災保険が認定される場合、雇用している企業や事業主が従業員にかわって給付の手続きを行いますが、未加入の従業員は、労働基監督署で手続きをおこなうことで、給付請求が可能です。

労災上乗せ保険(労働災害総合保険)の補償内容とは?


労災保険(政府労災)では補償が不足してしまう場合に備えて、労災上乗せ保険として「労働災害総合保険」があり、事業主や役員なども補償の対象となります。


東京海上日動や三井住友海上、損保ジャパンなど、民間の損害保険会社で取り扱う労災上乗せ保険(労働災害総合保険)には、「法定外補償保険」と「使用者賠償責任保険」の2種類があり、必要に応じてどちらか一方だけでも加入することができます

労災上乗せ保険
(労働災害総合保険)
法定外補償保険使用者賠償責任保険
死亡補償保険金労働災害により
死亡した場合
遺族へ設定した金額を支払い
後遺障害補償保険金労働災害で
後遺症となった場合
本人へ設定した金額を支払い
休業補償保険金労働災害で
休業した場合
4日目から設定した金額を給付
法律上の
損害賠償保険金
雇用主に
賠償責任が発生した場合
損害賠償金を支払い
費用保険金弁護士費用や
示談交渉などに関する
争訟費用など


通勤や業務のなかで怪我や病気になった場合に補償される政府労災保険ですが、労働者が満足できるほどの補償はありません。
  • 休業補償は80%が上限で、満額は補償されない
  • 安全や配慮が不足していた場合の、従業員への賠償補償がない
  • 従業員のミスによって起こった賠償補償はない

労災保険給付の対象となった従業員に対し、十分な補償を準備するなら任意加入の労災上乗せ保険(労働災害総合保険)を検討しましょう。 

労災上乗せ保険について相談する

労災上乗せ保険に付帯できる特約

労災上乗せ保険(労働災害総合保険)を取り扱う損害保険会社では、特約を付帯することで補償範囲を拡大できるようになっています。


損害保険会社によって、労災上乗せ保険に付帯できる特約には違いがあるので、加入する際は比較しながら検討するようにしましょう。


たとえば、三井住友海上には、3つの特約があります。

  • 通勤災害補償特約:通勤途上の災害に対する補償
  • 災害付帯費用補償特約:死亡や後遺障害で、香典や葬祭費用などの支出を補償
  • 退職者加算特約:身体障害により従業員が3年以内に退職した場合の補償
  • コンサルティング費用補償特約:事故防止のコンサルティング費用や社労士費用などを補償

東京海上日動や損保ジャパンで付帯できる特約には、以下のような補償があり、「法定外補償保険」と「使用者賠償責任保険」では、付帯できる特約も異なるので、ぜひ比較表を参考にしてみてください。

労災上乗せ保険
の特約
東京海上日動損保ジャパン
通勤中の
災害を補償
法定外補償保険
のみ
下請け業者への
補償

海外に
派遣したときの補償
退職者に対する
加算の補償
法定外補償保険
のみ 
法定外補償保険
のみ
特別加入している人を
補償
法定外補償保険
のみ
法定外補償保険
のみ
職業性の
疾病に対する補償
休業中の収入を
上乗せ補償
後遺障害に対する
上乗せ補償
法定外補償保険
のみ 
法定外補償保険
のみ
地震や噴火、
津波のときも補償


労災保険(政府労災)の上乗せ保険として加入する「労働災害総合保険」の基本補償は、どの保険会社も共通していますが、特約は大きく異なるので比較する必要性は高いと言えるでしょう。

労災上乗せ保険の保険料について


労災上乗せ保険(労働災害総合保険)は、法定外補償保険使用者賠償責任保険の2種類に加入するか、一方だけに加入するかを選択でき、加入方法によって保険料が異なります。


なお、保険期間は原則1年ですが、建設業など一定期間を指定して加入することも可能です。


死亡保険金、後遺症障害保険金、休業補償保険金の保険金額を設定し、「法定外補償保険」と「使用者賠償責任保険」、加入する保険ごとにそれぞれ計算されることから、一概に保険料の相場がどれくらいとは言えません。


危険性の高い建設業の場合、労災保険(政府労災)に上乗せして該当する従業員を対象とする法定外補償保険に加え、従業員に対する賠償を補償する使用者賠償責任保険も含めて検討しておくべきだと言えます。

上乗せ保険法定外補償保険使用者賠償責任保険
事業種類建設業
(事業種類番号35)
建設業
(事業種類番号35)
法定外補償規定 ありなし
完成工事高10億円
(年間)
10億円
(年間)
保険金額・業務災害:死亡時3,200万円、
後遺障害補償、休業時20%
・通勤災害:死亡時1,800万円、
後遺障害補償、休業時20%
・1名につき
2,000万円を限度
・1災害につき
1億円を限度
免責金額 1災害につき
100万円
事業規模
による割引 
ありあり
保険料約154万円 約38万円

一方、食料品製造業では、以下のような保険料となります。

上乗せ保険法定外補償保険
使用者賠償責任保険
事業種類食料品製造業
(事業種類番号41)
食料品製造業
(事業種類番号41)
法定外補償規定なしなし
賃金総額8,000万円
(年間)
8,000万円
(年間)
平均被用者数20名
保険金額・業務災害:死亡時3,200万円、
後遺障害補償、休業時20%
・通勤災害:死亡時1,800万円、
後遺障害補償、休業時20%
・1名につき
2,000万円を限度
・1災害につき
1億円を限度
免責金額1災害につき
100万円
事業規模
による割引
なしなし
保険料約33万円約15万円


上記の保険料は一般的であるため、保険会社や専門家に、事業に必要な補償についてアドバイスしてもらい、保険金額や保険料を設定することが望ましいと言えるでしょう。

加入する際の保険料を聞く

労災上乗せ保険の保険料の勘定科目

労災上乗せ保険で支払った保険料は、全額経費として損金算入することが可能です。


損害保険料として、借方・貸方の勘定科目に入れることができ、法人である場合は以下のような経理処理となります。

経理処理
(法人)
借方貸方
勘定科目損害保険料普通預金
金額保険料全額保険料全額

ただし、個人事業主が家事按分して経理処理する場合には、事業主貸の勘定科目を追加する必要があるので、覚えておいてくださいね。

経理処理
(個人事業主)
借方貸方
勘定科目①損害保険料
②事業主貸
普通預金
金額①家事按分した保険料
②家事按分した保険料
保険料全額

なお、労災事故が起おこり、労災上乗せ保険の保険金を受け取った場合の勘定科目は「雑収入」、その保険金を従業員へ支払ったときの勘定科目は「福利厚生費」として、経理処理すると良いですよ。

労災上乗せ保険のメリットや必要性とは?


労働災害が起こったとき、3つの補償について考えておかなければなりません。

  1. 従業員の死亡や障害、病気や怪我に対する医療費が政府労災保険を超過した場合に備える補償
  2. 事業主や役員の病気や怪我に対する補償
  3. 労災訴訟を起こされたときに備える補償
政府労災保険ではカバーしきれない補償を、法人や個人事業主は、労災上乗せ保険で備えておく必要があるのです。

そこで、労災上乗せ保険に加入することで、どのようなメリットがあるのかを考えてみます。
  • 政府労災保険だけではカバーできない範囲を補償してくれる
  • 保険料は全額損金として計上することができる
それぞれ詳しく解説するので、ぜひ加入を検討するときの参考にしてみてください。

①政府労災のカバーできない範囲を補償してくれる

1人でも雇用している法人や個人事業主には、政府労災保険に加入義務があり、労災上乗せ保険は、さらに範囲を拡げた補償を準備できます。


政府労災保険は、わかりやすく言えば最低限の補償です。


もしも、労災上乗せ保険に加入していなかった場合、労災事故が起こったときには、補償金額や損害賠償金額が不足し、大きな負担を抱えてしまうことが考えられます。


加入義務に対して保険で備えるケースとして、わかりやすく考えてみましょう。

  • 健康保険による公的医療保障では不足するため、医療保険などに加入する
  • 自動車は、自賠責保険だけでは不足するため、任意の自動車保険に加入する
  • 公的年金だけでは不足するため、個人年金保険など貯蓄性のあるものに加入する
それぞれ、不足している部分を補うために保険へ加入している人は多くいます。

同じように、従業員を雇用する法人や個人事業主は、従業員への不足する補償や、万が一、労災訴訟を起こされてしまった場合の補償をカバーする「労災上乗せ保険(労働災害総合保険)」を検討する必要性が高いと言えるのです。

②保険料を損金として計上することができる

労災上乗せ保険に加入すると、損害保険料は全額経費として計上できるため、法人税の計算時に節税へ繋がるため、大きなメリットだと言えます。


法人税の軽減を考えるなら、損金算入する費用を大きくすればするほど、課税される利益が減り、節税の効果は高くなるのです。


たとえば、土木や建設業などは、保険料を損金として計上できるだけでなく、他にも労災上乗せ保険に加入するメリットがあります。

  • 労災保険で不足する補償金額に備えられる
  • 下請け業者の社長や役員も含めて補償できる
  • 経営事項審査で15点加点されるので、公共工事の業者選定で評価される

とはいえ、損金として計上できる労災上乗せ保険では、必要以上の大きな補償に設定し、保険料を高額化する必要はありません。

法人税を軽減させたいがために、利益を減らすということは、経営に影響を与えかねず、新たな事業を始めたり、銀行などで融資を受けたりするときに、思うような事業展開ができなくなってしまう可能性があります。

労災上乗せ保険を検討するときは、無駄な保険料が発生してしまわないよう、専門家に相談することがおすすめですよ。

労災上乗せ保険に加入する際の注意点


労災上乗せ保険に加入するときには、3つのポイントに注意して検討することをおすすめします。

  1. 一人親方や個人事業主は加入できない場合がある
  2. 業種によって保険料が異なる
  3. 政府労災保険などで補償されなければ保険金の支払い対象外となる


保険料が発生する労災上乗せ保険は、加入する前に確認しておくべきポイントも多く、詳細な補償内容を理解しにくい保険だと言えます。


そのため、労災上乗せ保険でわからないことがあれば、専門家にアドバイスをもらいながら検討することがおすすめですよ。

①一人親方や個人事業主は加入できない場合がある

労災上乗せ保険は、政府労災保険と連動する形で保険金の支払いが決まるため、政府労災保険に加入していない一人親方個人事業主は、労災上乗せ保険に加入できないケースもあります。


土木や解体、運送など、一部の事業なら一人親方や個人事業主でも、政府労災保険に特別加入できるため、労災上乗せ保険への加入も可能です。


政府労災保険に特別加入できる業種が増えつつありますが、一人親方や個人事業主は、政府労災保険には加入できないことが原則で、一人親方労災保険組合などへ加入し、リスクに備えている場合もあるでしょう。


しかし、保険会社によっては、一人親方労災保険組合などに加入していても、労災上乗せ保険には加入できないこともあるのです。


一人親方や個人事業主は、加入しようとする労災上乗せ保険に、政府労災保険への加入が条件となっていないかを確認するようにしてくださいね。

②業種により保険料の相場が異なる

労災事故が起こりやすい土木や建設事業などは労災上乗せ保険への加入率も高くなっていますが、保険料が高くなる傾向があるなど、業種によって保険料が大きく異なります。


危険性が低い業種ほど、労災上乗せ保険の保険料は低く設定されているのです。


コロナ禍における医療従事者の危険性は高く、医療機関労災上乗せ補償保険の加入支援事業補助金の制度によって、コロナ対応をおこなう医療従事者を守っていました。


また、保険料を少しでも安くしたいなら、日本商工会議所の会員となり、業務災害補償保険に加入する方法もあります。


労災上乗せ保険と業務災害補償保険の比較表を、業種別に見てみると、同じ補償内容であっても、保険料が大きく異なることがわかります。

保険料比較労災上乗せ保険業務災害補償保険
土木事業371,520円258,240円
建設業371,520円236,880円
飲食店事業188,520円76,320円
運送事業445,800円309,120円


労災上乗せ保険を検討するか、日本商工会議所の業務災害補償保険を検討するか、事業によって保険料の違いもあるため、必ず比較しながら検討することをおすすめします。

③政府労災などによる補償がなければ適応されない

政府労災保険で労災が認められず、給付金が支払われない場合、労災上乗せ保険からも保険金は支払われません。


政府労災保険が認定されない場合は、以下のようなケースです。

  • 業務と関係のない行為
  • 自らの犯罪行為
  • 故意に発生させた業務労災
  • 地震や噴火、津波や大雨、洪水など自然災害
  • 通勤経路とは関係性がない通勤労災 など

これらに該当するときは、政府労災保険はもちろん、労災上乗せ保険に加入していても、補償の対象外となります。


また、損害保険会社では、それぞれ規定で「補償される場合」と「補償されない場合」を定めているため、特に補償されない場合には注意して確認しておきましょう。

労災上乗せ保険の加入方法


近年では、土木や建設事業などは労災上乗せ保険への加入を推進し、労災上乗せ保険への加入を前提とする契約となっていることも多くなっています。      


損害保険会社や代理店で、労災上乗せ保険に加入することができますが、法定外補償保険使用者賠償責任保険などを、十分確認したうえで検討することが大切です。


加入手続きをおこなう前に、まずは法人保険の専門家に相談し、他の保険とい重複していないか、検討している補償では不足している部分はないかなど、アドバイスを受けることをおすすめします。


法人保険や事業のリスク対策に詳しい専門家のいる「マネーキャリア」なら、無料で相談できるので、事業のリスクに必要な補償について、教えてもらうことができますよ。


相談満足度は98.6%と非常に高く、毎月30社以上の経営者や個人事業主といった相談者が利用しています。


政府労災保険や労災上乗せ保険について、専門家に相談するなら、ぜひマネーキャリアの無料相談を活用してみてください。

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まとめ:労災上乗せ保険(労働災害総合保険)について


加入義務のある政府労災保険では不足しがちな補償を、幅広い範囲でカバーしてくれる労災上乗せ保険(労働災害総合保険)は、保険によって補償が分かれるため、事業のリスクに合わせて加入することが大切です。


今回の記事におけるポイントをまとめてみましょう。

  • 政府労災保険は最低限の補償しかなく、損害賠償や訴訟対応などへの補償はない
  • 従業員などへの不足する補償は、法定外補償保険で備えられる
  • 賠償や訴訟などへの備えは、使用者賠償責任保険で備えられる
  • 労災上乗せ保険の保険料は、全額損金として計上できる
  • 労災上乗せ保険は、特約を付帯することで、より補償範囲を拡大できる
  • 労災上乗せ保険なら、下請けの社長や従業員も補償される
  • 政府労災保険が適用されなければ、労災上乗せ保険も補償の対象外となる

任意で加入する労災上乗せ保険(労働災害総合保険)ですが、事業をおこなっている以上、職場の安全を守る義務があります。

もしも労災による訴訟を起こされてしまった場合は、莫大な損害賠償責任を負ってしまい、事業継続にかかわるリスクも考えられるのです。

万が一の労災に備えて、従業員や下請け業者だけでなく、事業リスクも考えて労災上乗せ保険(労働災害総合保険)について、いま一度、よく検討してください。

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