ITビジネスを運営するうえで、避けて通れないのが「予期せぬ損害賠償リスク」です。受託開発やシステム運営の現場からは「たった一つのミスが数千万円の賠償に繋がったら…」という切実な相談が後を絶ちません。
結論から言えば、こうしたIT特有の事業リスクを包括的にカバーするのが「IT業務賠償責任保険」です。
本記事では、システム開発の遅延やサイバー攻撃、個人情報漏洩といった具体的な補償範囲から、保険選びで失敗しないための注意点をFPの視点で詳しく解説します。
この記事を読めば、自社に必要な補償が明確になり、万が一の事態でも経営危機を回避できる強固な備えを整えられるはずです。
内容をまとめると
- IT業務賠償責任保険とは、システム開発などによる、損害賠償のリスクを補償するための損害保険です。
- 具体的に、業務遂行中の偶然の事故、サイバー攻撃による損害、個人情報漏洩による賠償責任を補償します。
- IT業務賠償責任保険の細かな補償内容は保険会社によって異なるため確認が必要
- 事業のリスク対策や法人保険に関する相談は「マネーキャリア」がおすすめ
- 専門家に何度も相談でき、利用者の98.6%が満足しており安心して利用できる。
この記事の監修者 谷川 昌平 フィナンシャルプランナー
株式会社Wizleap 代表取締役。東京大学経済学部で金融を学び、金融分野における情報の非対称性を解消すべく、マネーキャリアの編集活動を行う。ファイナンシャルプランナー、証券外務員を取得。メディア実績:<テレビ出演>テレビ東京-テレ東「WBS」・テレビ朝日「林修の今知りたいでしょ!」
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この記事の目次
システム開発による賠償責任の事例

システム開発企業は、提供しているサービスの納期が遅延することや、システム納品後の不具合によって第三者に経済的損失を発生させてしまい、損害賠償請求を受けるリスク等があります。
発注企業とのトラブルによって発生する損害賠償金は高額になるケースも多く、特に顧客に多大な損害を与えてしまった場合は、自社の存続が危うくなる可能性もあります。
そのため、IT事業者の方々は、IT業務賠償責任保険に加入する等でリスク対策をすることをおすすめします。
実際にあった事例は以下のとおりです。
- 納期遅延による賠償請求
- 発注企業とのトラブル
- 開発後の不具合
事例1:納期遅延による賠償請求
1つ目は、納期遅延による賠償請求の事例です。
発注会社は、会社の主な事業で使用する宿泊予約などができるシステムの再構築を開発企業へ依頼しました。
しかし、開発企業側のプロジェクト体制や開発側の人員体制を見直したにもかかわらず、スケジュールを大幅に遅延してしまい、当初予定していた見積額も大幅に超えてしまいました。
さらに、稼働時期を1年以上伸ばすことを開発企業側が申し出たため、発注会社は作業中し及び契約解除をしました。
その後、システム開発のプロジェクトが失敗した責任や開発費用支払いを巡り交渉を続けましたが、解決に至らず訴訟となりました。
3年もの裁判の結果、両者ともに請求を放棄し和解という結果になりました。
事例2:発注企業とのトラブル事例
2つ目は、発注企業とのトラブル事例です。
発注会社は、会計や人事関連の情報を一元管理するシステムの構築を開発会社へ依頼しました。
しかし、システム導入直前に、発注会社内で新しいシステムの導入することを強く反対、開発協力を拒否したために仕様変更することを余儀なくされました。
多くの仕様変更に伴うスケジュール遅延が起き、プロジェクトは中断されました。
発注会社は、開発会社に対してシステムの使用不適合、品質の問題、請負契約の成立を理由に約18億円の損害賠償請求を行いました。
裁判所は、開発会社に対して約5億円の損害賠償金の支払い、発注会社に対して約2億円の支払いを命じました。
発注会社が現場の反発を抑えることができなかったことも原因にあり、双方に責任があると判断したためです。
本件のように、発注会社側にもトラブルがあったとはいえ、開発会社は発注企業との間で請負契約を成立していること等の理由で多額の損害賠償金を支払うことになります。
企業間トラブルは、双方にとって経済的損失が大きいため、リスク対策をとっておく必要はあるでしょう。
参考:発注会社とのトラブル事例
事例3:開発後の不具合に関する事例
3つ目は、開発後の不具合に関する事例です。
発注企業が開発企業に販売管理システムの開発を依頼しました。
納品後に発注会社がシステムを稼働させたところ、処理速度が遅く不具合が発生しました。
発注企業は開発企業に対してシステムの補修を求めましたが、開発企業側は不具合を認めず補修も行わなかったため、支払いを拒否しました。
一方、開発会社側は、システム完成・納品後に支払いがないとして損害賠償請求を行いました。
そのため、発注企業も請負契約の解除や損害賠償金の支払いなどを求める反訴をすることになりました。
裁判の結果、開発会社が前払金約1,000万円の返還と、約500万円の損害賠償金を発注会社に支払うという判決が下されました。
理由としては、開発会社のシステムは完成しているものの、システムの不具合は重大であり、それに対して補修がされないことが契約解除の原因であるとしたためです。
上記の事例以外でも、開発企業はシステム不具合によって、発注会社がシステムを利用できなかった期間の代替手段に要した費用等も損害賠償請求される可能性があるでしょう。
IT業務賠償責任保険とは?

IT業務賠償責任保険とは、提供したシステムの欠陥や不当な行為により、第三者に経済的損失を与えた際の損害賠償金をカバーする保険です。
急速な技術革新が続くIT業界では、開発遅延やバグ、さらにはサイバー攻撃や情報漏洩といった経営を揺るがすリスクが日常的に潜んでいます。こうしたITトラブルは一度発生すると被害額が膨大になりやすいのが特徴です。
万が一の事態に自社のキャッシュフローだけで対応しようとすれば、経営基盤そのものが崩壊しかねません。持続可能な事業運営を目指すIT事業者にとって、この保険への加入は不可欠な「経営戦略」といえます。
以下、IT業務賠償責任保険の具体的な補償内容について、専門家の視点から詳しく解説します。
IT業務賠償責任保険の補償内容

IT業務賠償責任保険の補償内容は以下のとおりです。
- 業務遂行中に発生した損害賠償責任
- サイバー攻撃による損害
- 情報漏洩による損害
| 主な業務 | 内容 |
|---|---|
| システム開発 | 顧客の社内システム開発・構築・メンテナンス、 コンサルティングなどの業務 |
| システム管理 | システムの保守・管理業務 (顧客データ管理、インターネットホスティング等) |
| パッケージ ソフトウェア開発 | パッケージソフトウェアの開発業務 |
| ASP、SaaS | 顧客に対してビジネス用ソフトを インターネット経由でレンタルする業務 |
| インターネット プロバイダ(ISP) | インターネットへの接続および 付帯するサービスの提供(ドメイン、サイト運営) |
| 情報処理サービス | 顧客のデータ入力、処理、加工等の業務 |
| 情報技術者派遣 | オペレーター派遣やIT技術者派遣の業務 |
| その他 | データマイニング、市場調査・分析、 情報技術に関する教育業務 |
IT業務賠償責任保険で補償できないケース

IT業務賠償責任保険では、保険金の支払い対象にならないケースがあります。
具体的には以下のとおりです。
- 保険契約者及び被保険者が故意に損害を発生させた場合
- 保険契約者が保険期間開始時点で、保険期間開始以前に発生した事由に対して賠償請求を受ける可能性があると認識していた場合
- 被保険者が窃盗、横領、背任行為等の犯罪行為を行った場合
- 通常行うべきテストをしていないシステムもしくはソフトウェアの瑕疵が原因で事故が生じた場合
- 被保険者の業務履行遅延もしくは履行不能によって生じた賠償責任
- 第三者の身体障害、財産紛失、損壊等の損害賠償
- 商標権及び特許権、著作権などの知的財産権を侵害した場合
IT業務賠償責任保険に加入する方法
これまでに、IT業務賠償責任保険の補償内容や実際の賠償責任の事例についてご紹介してきました。
この記事を読んでいる方の中には、自社でリスク対策する上でIT業務賠償責任保険への加入が必要、もしくは加入を検討している方もいるかと思います。
今回ご紹介したIT業務賠償責任保険への加入方法は、保険を取り扱っている保険代理店や保険会社に問い合わせることで加入できます。
とはいえ、保険会社に問い合わせる前に自社にどのようなリスクが潜んでいるかや、対処方法等を個別に確認したい方もいるでしょう。
その際に利用したいおすすめのサービスは「マネーキャリア」です。
法人保険の活用事例集
まとめ:IT業務賠償責任保険について

IT業務賠償責任保険では、IT事業者が提供するサービスに欠陥等があり、第三者が経済的損失を負ってしまった場合に請求される損害賠償金を補償する保険です。
急成長で伸び続けるIT業界では、業務遂行中に起きた損害賠償責任や、サイバー攻撃による損害、情報漏洩等のリスクが起こり得ます。
発注企業とのトラブルによって発生する損害賠償金は高額になるケースも多く、特に顧客に多大な損害を与えてしまった場合は、自社の存続が危うくなる可能性もあります。
そのため、IT事業者の方々は、IT業務賠償責任保険に加入する等でリスク対策をすることをおすすめします。
また、今回ご紹介したリスク以外にも、業務に使用するPCの保全やオフィスの火災リスクにも別途備える必要があります。
自社を取り巻くあらゆるリスクに対して対策をとるためにも、企業のリスクを総合的に判断し適切な提案をしてもらえる「マネーキャリア」に相談することをおすすめします。

