円安が進行することで、私たちの生活には多大な影響が及びます。しかし「どういう影響が及ぶのか」まで理解できている人はそう多くないかもしれません。そこで、今回の記事では円安がなぜ生活に影響するのか、具体的にどういう影響を及ぼすのかについてわかりやすく解説します。
監修者 谷川 昌平 フィナンシャルプランナー
株式会社Wizleap 代表取締役。東京大学経済学部で金融を学び、金融分野における情報の非対称性を解消すべく、マネーキャリアの編集活動を行う。ファイナンシャルプランナー、証券外務員を取得。
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この記事の目次
2022年進む円安、日常生活への影響とは?
2021年1月6日に1ドル=102.59円まで円高が進んだ後は、円安ドル高トレンドに生じています。2022年1月4日時点では1ドル=116.36円だったものが、4月12日現在1ドル=125.31円にも達しており、この傾向に歯止めはかかっていません。
円安・円高や為替と聞いても「自分の生活に関係ないでしょ」と思う人もいるかもしれませんが、実はかなり密接に関係しています。一言でまとめると、円安が進み続けることで海外から輸入するモノ・サービスの値段は上がり続けるため、生活が圧迫されるおそれがあるのです。
一見難しい話かもしれませんが、基本的な仕組みを理解するだけでもわかりやすくなるので、ていねいに解説します。
円安・円高についての基礎知識【図解あり】
円高、円安の意味は文字通り「日本円が高くなる・安くなる」ことです。
たとえば、最初は1ドル=100円だったとしましょう。 1ドル=50円になった場合、円高になったといえます。 50円出せば1ドルが買える状態になったため、円の価値が相対的に上がっているのです。 逆に、1ドル=200円になった場合、円安になったといえます。 200円出さないと1ドルが買えない状態になったので、円の価値が相対的に下がったと考えましょう。
詳しくは後述しますが、円高・円安のどちらにもメリット・デメリットがあります。
どちらなら良い、悪いという問題ではありません。
円安・円高のメリット・デメリットの整理
円高の局面では、輸出が不利、輸入が有利になり、円安の局面では輸出が有利、輸入が不利になります。
例えば、1台5万ドルの車を海外に向けて売る場合を想定しましょう。当初、1ドル=100円だったとして、その後円高(1ドル=80円)もしくは円安(1ドル=120円)になったら、日本円ベースでの売上がどう動くかをまとめました。
為替相場 | 日本円ベースでの売上 |
---|---|
1ドル=80円 | 400万円(=5万ドル×80円) |
1ドル=100円 | 500万円(=5万ドル×100円) |
1ドル=120円 | 600万円(=5万ドル×120円) |
為替相場 | 日本円ベースでの仕入値 |
---|---|
1ドル=80円 | 4,000円(=50ドル×80円) |
1ドル=100円 | 5,000円(=50ドル×100円) |
1ドル=120円 | 6,000円(=500ドル×120円) |
このように、円高だと海外から物を買いやすくなるのがメリット、海外に物を売りにくくなるのがデメリットです。そして、円安だとちょうど逆のことが起きると考えましょう。
過去の為替レートの推移と現在
1971年4月から従来の1ドル=360円の固定レートが終了し、変動相場制に移りました。その後、円安・円高を繰り返し、 2011年10月には1ドル=75.32円と円が過去最高値をつけています。
しかし、その後は円安・ドル高傾向が続いています。 特に、2013年4月に黒田東彦氏が日銀総裁が開始した大規模金融緩和が大きく影響しているでしょう。 実際のところ、円安が進行すると日常生活にどう影響するのかは、次で詳しく解説します。
円安が進行すると日常生活への影響は?
円安が進行した場合の日常生活への影響を一言でまとめると「生活費は上がるのに、給料は下がる可能性がある」といったところです。結果として、収入が変わらなかったとしても生活が苦しくなる可能性が出てきます。
より具体的にいうと、次の2つの出来事が同時に起きる可能性が高いためです。
- 日用品(特に原材料の多くを輸入に頼っているもの)の値上げが起きる
- 輸入が多い企業を中心に年収の大幅ダウンが起きる恐れがある
それぞれについて詳しく解説しましょう。
輸入品・原材料価格の上昇に伴う日用品の値上げ
円安になると、海外から日本への輸入の際の費用が高くなるため、日用品の価格も上がりがちです。特に、原材料の多くを輸入に頼っているものは円安の影響で値上げをせざるを得なくなります。
ここで、円安の影響で値上げをしたものについて、リストを作成しました。
商品 | 詳細 |
---|---|
サラダ油 | 食品大手・日清オイリオグループでは家庭用食用油を1キログラムあたり40円以上値上げ |
ケチャップ | 食品大手・カゴメではトマトケチャップなどを最大約9%値上げ |
レトルトカレー | 食品大手・大塚食品では主力商品「ボンカレーゴールド」の価格を10円引き上げ |
スナック菓子 | 人気スナック菓子「うまい棒」が10円から12円に値上がり |
ウイスキー | サントリースピリッツは人気ウイスキー「山崎12年」を約18%値上げ |
紙おむつ | 日用品大手・花王では紙おむつ「メリーズ」を約10%値上げ |
株価・日本経済への影響と会社員の給与への影響
海外旅行でかかる費用が増える
円安になると海外旅行でかかる費用が増えます。たとえば、ハワイに行き1泊200ドルのホテルに泊まったとしましょう。仮に、1ドル=80円だった場合、日本円に直すと16,000円を支払えば良い計算になります。しかし、円安が進み1ドル=130円になった場合、日本円で26,000円もかかってしまうのです。
このように、円安の局面ではまったく同じ旅程・行動の旅行だったとしても、日本円に換算すると持出が多くなるので注意しましょう。
2022年の円安の今後の見通し・予測は?どこまで安くなる?
円安がどこまで進むのかについての人々の予想はさまざまです。2015年6月にも1ドル=125円前後まで円安が進んだ時、日銀総裁・黒田東彦氏は「ここからさらに円安に振れることは、普通に考えるとなかなかありそうにない」と発言しています。この発言は市場において、過度な円安に関するけん制として受け止められたのです。結果的に、一時2円以上も円高が進みました。
この出来事があって以来、1ドル=125円前後を「黒田ライン」と呼ぶ市場関係者もいます。実際のところ、1ドル=125円が円の底値と考える市場関係者もいれば、中長期的には黒田ラインを超えた円安が進むと考える市場関係者もおり、先行きはかなり不透明でしょう。