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医療費控除の明細書に記入が必要な「生命保険や社会保険などで補填される金額」とはなんでしょうか。この記事では、医療費控除の際に実際に払った医療費から差し引く必要のある生命保険等の保険金について解説しています。差し引く保険金を記入する際の注意点も説明します。

監修者「谷川 昌平」

監修者 谷川 昌平 フィナンシャルプランナー

株式会社Wizleap 代表取締役。東京大学経済学部で金融を学び、金融分野における情報の非対称性を解消すべく、マネーキャリアの編集活動を行う。ファイナンシャルプランナー証券外務員を取得。
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この記事の目次

医療費控除の「生命保険や社会保険などで補填される金額」とは?

こんにちは。マネーキャリア編集長の○○です。 先日、40代の女性の友人からこんな疑問を寄せられました。 

最近思いがけず大きな病気をしてしまって…結構医療費かかったんだよね。確定申告で医療費控除ができるって聞いたんだけど、その中にある「生命保険や社会保険などで補填される金額」ってどう計算すればいいの?

日本では会社員やパート・アルバイトの方が多いため一般的ではない確定申告。

加えて、確定申告には聞きなれない用語が沢山でてきます。


ここでは、

  • 医療費控除の仕組み
  • 生命保険などの保険金を受け取った場合の計算方法
  • 医療費控除の対象になるもの・ならないもの
  • 医療費控除に関係する確定申告について
など、医療費控除の仕組みがわかる記事になっています。ぜひ最後までご覧ください。 

マネーキャリアでは、お金に関する記事が数多くありますので興味のある方は合わせてご覧ください。

保険金は医療費控除を受ける際に支払った医療費から差し引く金額


中々馴染みのない医療費控除ですが、計算方法はさほど難しくありません。

医療費控除額=医療費合計額-生命保険や社会保険などで補填される金額

基本的にはただの引き算です。


日本は国民皆保険制度が整備されていますので、全員もれなく「もらった保険金」は差し引いて控除額を計算しなければいけません。


「すぐ治る病気で保険金が貰えて、更に医療費控除もできてオトク」


と思っている方もいるかもしれませんが、そんなうまい話はありません。

なぜ差し引かれるか、その理由については後述します。

生命保険や社会保険などで補填される金額を決める際の注意点!


ただの引き算とはいえ、


「生命保険や社会保険などで補填される金額」


一体これがいくらになるかは、少々ややこしい部分もあります。

特に、家族など複数人が別々の治療を受け、そのうち1つの治療にかかる医療費のみに保険金給付を受けた場合などは、間違いやすくなります。


この金額を決める際の注意点について、5点ご紹介します。


なお、間違えて確定申告した場合は税務署に申し出ることができますが、手間がかかる上に「納め過ぎた」と税務署が認めてくれなければ納めたお金は返ってきません。


申告する前に下記5点をしっかり確認し、正しく申告しましょう。

①国民健康保険とまちがえてはいけない

まず、補填される金額の対象について正しく理解しなければいけません。

以下4つが該当します。

  • 生命保険契約や損害保険契約に基づき医療費の補てんを目的として支払を受ける医療保険金や入院費給付金、傷害費用保険金など
  • 社会保険や共済に関する法律やその他の法令の規定に基づき、医療費の支払の事由を給付原因として支給を受ける給付金  
  • 医療費の補てんを目的として支払を受ける損害賠償金
  • 任意の互助組織から医療費の補てんを目的として支払を受ける給付金

(引用:国税庁ホームページ)


簡単にまとめれば、

医療費の補填を目的として」もらった「社会保険、生命保険、損害保険、損害賠償金」が該当します。


このうち、社会保険とは会社員や公務員が加入しているもので、

  • 健康保険
  • 介護保険
  • 厚生年金保険
の3つが含まれます。

ここで勘違いしやすいのは国民健康保険。
国民健康保険と健康保険は、名前は似ていますが別の保険です。

自営業者等が加入する国民健康保険は、補填される金額には当たりません。

②保険金は全額差し引く必要はない

生命保険や損害保険の給付を受けると時々発生するのが、


実際に支払った医療費の額<同一の医療について受け取った保険金


となる場合。

この際、受け取った保険金を全額差し引く方がいますが、その必要はありません。


これは国税庁「超えた保険金を別の医療費から差し引く必要はない」と明確に回答しています。


具体例を出すと、

  • 子供の入院で支払った医療費:10万円
  • 自分の病気の治療で支払った医療費:10万円
  • 夫の通院で支払った医療費:5万円
  • 子供の入院で受け取った生命保険の保険金:15万円
このような支払いと受け取りだった場合、子供の入院で受け取った保険金は10万円だけ差し引けばOKです。

そのため、実際に医療費控除の対象となる額は、
10-10+10+5=15万円が正しい答えです。

③保険金の給付要件が医療行為でない保険金は差し引く必要はない

①で前述していますが、補填される金額とは、「医療費の補填を目的として」もらった金額です。


がんの診断給付金など、そもそも医療費の補填を目的としない保険金は差し引く必要はありません。


また、出産時の帝王切開などでかかった医療費については、

  • 健康保険の高額療養費
  • 出産育児一時金
  • 保険金
上記3つの補填が考えられますが、帝王切開は保険内治療です。

そのため、高額療養費制度適用後の金額から保険金を差し引くだけで問題ありません。
もちろん、差し引く金額は「健康保険の高額療養費」分だけでOKです。

自費による出産費用については、出産育児一時金のみ差し引きます。

④翌年に保険金をもらうとき場合も医療費控除の明細書に記入する

年末に病気になり、治療費を支払ったうえで保険金を翌年に受け取る場合もあるでしょう。


その際は、仮に保険金を受け取っていなくても記載し差し引く必要があります。


金額が確定している場合はその金額を、未確定の場合は「見積もり額」を記載してください。


見積もりの場合は実際の額とずれることがありますので、その際は税務署に申告して修正します。


見積額が多すぎた場合は追加で税金を支払い、少なすぎた場合は税金の還付を受けることになります。

⑤年をまたいだ医療行為は差し引く保険金の金額を振り分ける

年末に病気になった場合、治療中に年をまたいでしまう場合もあります。


その際は、前年の医療費と今年かかった医療費を算出し、割合を計算してください。

その割合の通り、給付を受けた保険金を振り分けていきます。


例えば、

  • 前年の医療費:10万円
  • 今年の医療費:5万円
  • 生命保険の保険金:6万円
だった場合は、前年:今年の割合が2:1となります。
そのため、保険金は前年に4万円、今年に2万円で割り振り、医療費から差し引く計算になります。

④と同様、実際に保険金を受け取った日とは無関係ですので、

「今年に保険金を受け取ったから来年の確定申告で差し引けばいいよね」

と勘違いしないように注意しましょう。

医療費控除の控除額と返ってくる還付金はいくら?


仕組みに関しては理解いただけたかと思いますので、実際の控除額や還付金を計算してみましょう。


医療費控除の控除額は、前述の通りですが改めて記載すると、


医療費控除額=医療費合計額-生命保険や社会保険などで補填される金額


となります。

実際の還付金については、これに所得税率と住民税率をかけた金額です。

住民税は自治体によって微妙な差異がありますが、基本的には10%。


ちなみに、2021年5月現在、期間限定を除いて税率が最も安い自治体は愛知県名古屋市の9.7%です。ただしそれでも0.3%ですので、高額納税者以外はほとんど差がありません。


所得税率については、課税される所得金額に応じて下記のように分類されます。

  • 194万9000円まで:5%
  • 329万9000円まで:10%
  • 694万9000円まで:20%
なお、課税される所得金額については下記の通りです。
  • 源泉徴収されてない方:収入-所得控除-経費
  • 源泉徴収されている方:給与所得控除後の金額-所得控除の額の合計額

源泉徴収票がある方は簡単に計算できますので確認してみましょう。

年収400万円以下の方は、個人差はありますが所得税率は5%になることが多いです。


よって、実際の還付金は所得税率5%の場合、


医療費控除額×15%


となります。

もちろん、所得税率が高い方はもっと還付金が増えます。

差額ベッド代等の治療目的でない費用は医療費控除の対象外

覚えておくと税金の還付も受けられオトクな医療費控除ですが、払ったものなら何でも対象になるわけではありません。

対象とならないものがあり、例としては下記の通りです。
  • 人間ドックなど健康診断の費用(病気が発見され治療した場合は除く) 
  • 予防注射の費用 
  • 美容整形の治療費用 
  • マイカー通院のガソリン代や駐車料金 
  • 里帰り出産のための実家への交通費 
  • 自分の都合で利用した差額ベッド代
見れば分かりますが、これらはいずれも「治療に必要な医療費とは別の費用」です。
そのため対象外とされています。

保険金を差し引かなかったことがバレる可能性は十分にある

なお、確定申告をする際に


「還付金が沢山欲しいから保険金を差し引かずに…」


などと悪知恵を働かす方がいますが、実質上の脱税行為ですのでやめましょう。

脱税に関する金銭的・社会的制裁は大変重いです。

  • 追徴課税
  • 懲役を含めた刑事罰 ※悪質だったり高額だった場合
バレた場合、これらを食らう羽目になります。

ちなみに、100万円以上の場合は保険会社から税務署に「支払調書」が送られますから、ごまかしは通用しません。100万円未満でも、抜き打ち調査で見つかれば終わりです。

個人単位での脱税なら億単位でもない限り刑事罰まではいかないと思いますが、追徴課税は間違いなく食らいます。
  • 過少申告加算税
  • 重加算税
特に重加算税が適用されると負担は重く、過少申告分×35%加算されます。
その年、たまたまバレなくても翌年バレれば払う羽目になります。

繰り返しますが、本来受け取った保険金を差し引かずに還付金を増やす行為は絶対にやめましょう。

医療費控除の申告はオンライン上で完結するe-Taxがおすすめ!

ここまで分かれば、あとは正しい金額を記載して確定申告するだけ。


「確定申告って税務署行かないといけないよね」


と思っている方が多いですが、現在はネット上でも完結できます。

e-TAX(国税電子申告・納税システム)です!


詳細はe-TAXホームページをご確認ください。

マイナンバーカードがなくても手続きはできますが、持っている方は


マイナンバーカード+カードリーダー(PC)または対応スマホ


を使うと、より簡単に手続きできます。

医療費控除や保険金を差し引くことを忘れていた場合の対処法


既に確定申告をした方で、何かしらの不備や誤りがあった方。

例えば下記の場合などが想定されます。

  • 医療費控除の申告を忘れた
  • 生命保険の保険金を差し引くのを忘れた
初めて申告する方にとっては不慣れな上に仕組みが分かりにくく、慣れている方でも抜け漏れが起きやすい確定申告。

税務署も鬼ではありませんので、きちんとした手続きを取れば修正できます。
ここでは医療費控除の修正方法に絞って、3パターンに分けて対処法を解説します。

会社員が医療費控除の申告を忘れたときは還付申告を行う

まずは、会社員が医療費控除の申告を忘れた場合。

還付申告を行ってください。


還付申告とは、確定申告の対象年翌年~5年間申告できるもので、所定の控除において手続きをすることができます。


医療費控除の他にも、

  • 住宅ローン控除
  • 寄付金控除
  • 雑損控除
  • 社会保険料控除(年末調整後に子供が成人し、子供の保険料を払った場合)
  • 配偶者控除(年末調整後の結婚)
など、様々な控除を受ける際に還付申告を利用することができます。
医療費控除以外でも使える便利な制度ですので、覚えておきましょう。

個人事業主が医療費控除の申告を忘れたときは還付申告を行う

次に、個人事業主が医療費控除の申告を忘れた場合。

会社員と同様に還付申告をすることができます。


ただし、確定申告後に医療費控除の申告を忘れた場合は、還付申告ではなく「更生の請求(確定申告期限後)」または「訂正申告(確定申告期限内)」となります。


なお、普段確定申告をe-TAXで行っている方でも、還付申告の場合はe-TAXは使えません。

補足:個人事業主の確定申告時の控除について

個人事業主の場合は自分で確定申告をする必要があります。


確定申告の際に、「集計する必要がある控除」と「必要がない控除」に分かれますので、その点は注意しましょう。


基本的に、基礎控除や配偶者控除など、条件を満たせば一定額の控除を受けられるものは集計の必要はありません。


集計する必要がある控除は、例として以下の控除が該当します。

  • 社会保険料控除
  • 小規模企業共済掛金控除
  • 生命保険料控除
  • 寄付金控除
  • 雑損控除
  • 医療費控除
当然、医療費控除は集計が必要ですので、前述の計算式に当てはめて集計の上申告してください。

保険金を差し引くことを忘れたときは修正申告を行う

最後に、会社員か個人事業主かを問わず、保険金を差し引くことを忘れて還付金を多く受け取った場合。

必ず、自分から修正申告をしてください。


これは、過少申告加算税という税務署からのペナルティーを軽減するためです。


できれば最初から間違えずに申告するのが望ましいのですが、間違えた場合は仕方ありません。正直に「保険金を差し引くのを忘れたので修正申告します」と申し出ましょう。


申し出た場合は、指摘を受けた場合よりも5%過少申告加算税が安く済みます。

(参照:国税庁ホームページ)

コラム:生命保険等で受け取った給付金は非課税


「病気で辛い思いもしているのに、税務署は生命保険などの保険金すら見逃してくれないのか!」


と不満を言う人もいるかもしれませんが、税務署側にも正当な理由があります。

そもそも、生命保険で受け取る医療に関する保険金は非課税だからです。


本来、もらったお金には原則として税金がかかります。


あまり意識していないかもしれませんが、たった10円の利息にすら税金が差し引かれています。医療に関する保険は、数少ない例外です。


そのため、元々非課税である保険金を差し引かずに医療費控除を受ければ、


「元々非課税の所得に対して税金の還付を行う」


ということになります。

税務署の職員の立場になって考えてみてください。


明らかにおかしいですよね?

まとめ:医療費控除で適切な生命保険や社会保険を差し引こう

ここまで医療費控除について詳しく解説しましたが、いかがでしたでしょうか。

本記事では、

  • 医療費控除の計算方法
  • 医療費控除の際の確定申告の方法
  • 生命保険などの保険金が差し引かれる理由
  • 保険金を差し引かず、それが税務署にバレた場合のペナルティー
など、医療費控除に絡む確定申告についても解説してきました。

改めて冒頭の疑問にお答えすると、

「生命保険や社会保険などで補填される金額」とは、実際にかかった医療費に関して受け取った生命保険などの保険金を意味するもの。
なお、これを差し引かなければいけない理由は、医療に関する保険金が非課税だから。

となります。

大半の方にとって、税金、確定申告、控除は馴染みが薄いもの。
だからこそ、知っていることは強力な武器にもなり得ます。

正しい知識を身に着け、正しく用いて少しでも豊かに暮らす武器にしていきましょう。