FP歴17年でCFP ®資格を保有する金子賢司さんに、子育て・住宅ローン世代の家計にのしかかる金融リスクの不安を解消することについてお話を伺ってきました。
この記事の目次
ファイナンシャルプランナー(FP)金子賢司氏のプロフィール

金子賢司
CFP ®資格(資格番号:90260739)
立教大学法学部法学科卒業後、アジア、ヨーロッパ、北米、オセアニアを中心に世界24ヵ国(2018年時点)で共通するCFP ®資格を取得し、ライフプラン・生命保険・損害保険・住宅ローン・介護・相続・資産運用・老後資金などのお金にまつわる相談を行う。
【経歴】
1998年 私立立教大学法学部法学科卒業
1998年 株式会社菱食(現:三菱食品株式会社)
2007年 三井住友海上きらめき生命保険(現あいおい生命)
2009年 日本興亜損保(現損保ジャパン)
「先行きの見通しが立てにくい」という現在の金融リスク

最近の子育て・住宅ローン世代が直面する最大の金融リスクは、「先行きの見通しが立て にくい」という点に集約されます。
金利上昇により住宅ローンや自動車ローンなど大きな買い物の負担が増し、物価高がいつまで続くのか見通せない状況では、⾧期的なライフプランを立てること自体が困難になっています。教育資金をいくら準備すべきか、住宅購入のタイミングをどうするか、こうした人生における重要な決定が非常に難しくなっているのです。
特に不安を抱えているのは、教育費や住宅ローン返済を同時に抱える30代から50代前半の世帯です。この世代は支出のピークと収入の伸び悩みが重なりやすく、金利上昇と物価高のダブルパンチを最も受けやすい立場にあります。
また、すでに年金を受け取っている高齢者世帯も深刻な影響を受けています。年金額は物価に応じて調整されますが、物価上昇分がそのまま反映されるわけではなく、現役世代のように収入を増やす手段も限られているためです。
こうした状況では、まず自分の家計の現状を正確に把握し、複数のシナリオを想定したライフプランを作成することが重要です。不確実な時代だからこそ、計画を持つことで取るべき行動が見えてきます。
後悔しないための住宅ローンの適切な見直し基準とは
金利上昇時に家計が破綻しやすい世帯の特徴は、端的に言えば「収支がカツカツの世帯」です。毎月の収入と支出がほぼ同額で、金利が少しでも上がれば家計の収支がマイナスに転じてしまう状態の方は要注意です。
こうした世帯は貯蓄も少ないことが多く、金利上昇への対策を立てる間もなく、最悪の場合は住宅の売却を検討せざるを得なくなる可能性があります。
住宅ローンの見直し基準として確認すべきなのは「金利が1%上昇した場合の返済額増加分を、現在の家計で吸収できるか」という点です。
例えば、借入残高3,000万円・残期間25年の場合、金利が1%上がると月々の返済額は約1.4 万円増加します。変動金利で借りている方は、こうした返済額の増加シミュレーションを行い、月々の余剰資金や貯蓄で対応可能かを検証してください。多くの金融機関のウェブサイトで無料のシミュレーションツールが提供されていますので、活用をおすすめします。
なお、一般的な目安として、住宅ローン返済額は手取り収入の25%以内、生活防衛資金は生活費の6か月分以上が望ましいとされています。これらを満たしていない場合は、繰り上げ返済による元本圧縮や、固定金利への借り換えを検討する価値があります。
重要なのは、金利が上がってからではなく、今のうちに自分の許容範囲を把握しておくことです。
新NISA、攻めと守りのバランスはどうとるべき?
新NISAで特定銘柄への偏重が見られるとのご指摘ですが、投資信託自体がそもそも分散投資効果を持つ商品です。
例えば、全世界株式型や米国株式インデックス型の投資信託であれば、一つの商品で数百から数千の銘柄に分散されているため、過度な心配は不要です。
ただし、注意してほしいのは「投資期間」についてです。10年、15年といった十分な投資期間を確保できない場合、株式中心の投資信託はリスクが高いと考えてください。短期間では市場の変動を吸収しきれず、必要なタイミングで元本割れしている可能性があります。
攻めと守りのバランスについては、基本的に自身のリスク許容度に合った分散投資を心がけていただきたいと思います。実際、新NISAが始まって以降、株式市場の乱高下が大きく、ハラハラしているという方も多いのではないでしょうか。
もし日々の値動きが気になって仕方がない、下落時に不安で眠れないという状態であれば、それはリスクを取りすぎているサインです。
株式比率を抑えたバランス型の投資信託を選ぶ、投資額自体を見直すなど、自分が冷静でいられる範囲に調整することが、⾧期投資を継続するためのポイントと言えます。
家計で「手を付けるべきではない支出」と「大幅に削減すべき支出」
物価高への対策として食費や娯楽費の削減に走りがちですが、家計を本質的に強くするためには、削るべき支出と守るべき支出の見極めが重要です。
「絶対に手を付けるべきではない支出」は、将来の収入増加や家計の安定につながる自己投資です。具体的には、スキルアップのための学習費用、健康維持のための適度な運動や検診費用、そして家族の心身の健康を守るための最低限の娯楽や休息です。これらを削ると、⾧期的には収入減少や医療費増加という形で家計を圧迫します。
一方、「大胆に削減すべき支出」は、惰性や見栄で続けている変動費です。なんとなく習慣で続けている外食、必要以上に高品質・高価格なものを選んでいる日用品、周囲に合わせるための交際費などが該当します。特に「自分へのご褒美」として定期的に発生している支出は、本当に満足度が高いのか一度振り返ってみてください。
境界線の判断基準は「その支出が将来の自分や家族にプラスのリターンをもたらすか」という視点です。単なる節約ではなく、限られた資金を効果的に配分するという発想で家計を見直すことをおすすめします。
教育費と老後資金、どうバランスを取る?
一般的なご家庭では、住宅購入資金、教育資金、老後資金という3つの大きな資金への準備が必要です。これを「人生の3大支出」と言います。この3つはそれぞれ独立しているわけではなく、バランスを取りながら準備しなければなりません。
問題は、教育費に過度にお金をかけてしまうケースです。お子様のやりたいことや、将来を思う気持ちから教育費を優先しがちですが、その結果、老後資金が十分に準備できず、退職金のほとんどを老後資金に充当せざるを得なくなることがあります。
特に注意が必要なのは、お子様の大学入学時期と親の定年退職時期が近いケースです。大学の学費が最も負担となる時期に退職金を受け取ると、そのまま教育費に費やしてしまい、老後の生活資金が大幅に不足する事態になりかねません。
こうした事態を避けるための対策は主に2つあります。まず、定年退職後も継続雇用や再就職で働き続け、収入を確保すること。そして、奨学金を活用して教育費の支出を分散させることです。奨学金はお子様が卒業後に返済していく仕組みのため、親世代の老後資金を守りながら教育機会を確保できます。返済をしていくお子様を、定期的にご両親が生活面で支援していくといった形でも良いでしょう。
教育費と老後資金、どちらも大切だからこそ、早めに見通しを立てておくことが重要です。
「何から手を付けるべきか」の悩みを解決に導くFPサポート
「何から手をつければいいか分からない」という行動の壁に直面する方は非常に多いです。 お金の不安が消えない根本的な原因は、これから先いくらかかるのかが分からないことにあります。
私がFPとしてサポートする際の最初の診断ステップは、「ライフプランの作成」です。家計相談においてライフプランを作成しなければ、何も始まらないといっても過言ではありません。
ライフプランとは、今後の人生で想定されるイベント(住宅購入、子どもの進学、車の買い替え、退職など)と、それに伴う収支を時系列で整理したものです。将来どれくらいのお金が必要なのか、おおよそでも分かれば、自身が取るべき行動が見えてきます。具体的には、まず現在の家計収支と資産負債の棚卸しを行います。
次に、今後20年から30年のライフイベントを書き出し、それぞれの概算費用を算出します。そして、現在の貯蓄ペースで足りるのか、いつ資金がショートするリスクがあるのかを可視化します。
漠然とした不安は、数字で見える化することで「具体的な課題」に変わります。課題が明確になれば、対策も立てやすくなります。まずはライフプランを作ることから始めてみてください。
お金の不安がある皆さんへ専門家からのメッセージ
賃金の上昇が物価高になかなか追いつかず、社会保険料も上昇傾向にあります。この厳しい現実の中で、現役世代はより効率的にお金を活用することが求められています。
まず行動を起こしてほしいのは、お金に関する情報のアンテナを高く保つことです。制度は毎年のように変わります。新NISAやiDeCoといった税制優遇制度、各種給付金や補助金など、知っているだけで得られるメリットは数多くあります。
そして、資産運用に投資を積極的に活用することをおすすめします。預貯金だけではインフレに負けてしまう時代です。⾧期・分散・積立という基本を押さえれば、投資は決して怖いものではありません。
完璧な計画を立ててから動こうとすると、いつまでも一歩が踏み出せません。まずは少額からでも始めてみること、そして分からないことがあれば専門家に相談すること。この二つを実践するだけで、将来への不安は確実に軽減されます。
不安を解消する第一歩は、ライフプランを作成して、今のままの生活をしていったらお金が足りるのか、足りないのかを可視化することです。怖がらずに、現状をまずは押さえたうえで対策を立てていきましょう。