自賠責保険の法改正が可決!自賠責保険の概要とその改正内容について知っておこうのサムネイル画像

自賠責保険に関する改正法が成立しました。自動車ユーザーにとっては、年額150円ほど負担が増える可能性のある改正です。この記事では自賠責保険の概要と改正内容について紹介しますので、ぜひチェックしてみてください。

記事監修者「谷川 昌平」

この記事の監修者谷川 昌平
フィナンシャルプランナー

東京大学の経済学部で金融を学び、その知見を生かし世の中の情報の非対称性をなくすべく、学生時代に株式会社Wizleapを創業。保険*テックのインシュアテックの領域で様々な保険や金融サービスを世に生み出す一歩として、「マネーキャリア」「ほけんROOM」を運営。2019年にファイナンシャルプランナー取得。

この記事の目次

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自賠責保険の概要



自賠責保険の改正内容を知る前に、そもそも自賠責保険がどのような保険なのかについて、概要を知っておきましょう。


どんな保険なのか、保険料と保障内容などについて紹介していきます。

どんな保険なのか

自賠責保険は、交通事故の被害者に対する損害賠償を確保するための保険です。


具体的には、自動車損害賠償保障法という法律によって、道路を走る車は自賠責保険の契約が強制されています(自賠責法第5条)。


これにより、加害者に資力がなく任意保険に加入していない場合でも、自賠責保険の保険金によって一定限度まで損害賠償を受けることが可能です。


その他、自賠責保険の特徴を以下に挙げます。


  • 保険契約が強制されているのは原動機付自転車を含むすべての自動車となっている
  • 保険金が支払われるのは人身事故のみで、物損事故は対象外となっている
  • 保険金は被害者1人ごとに限度額が定められている
  • 被害者は、加害者の自賠責保険会社に直接保険金の請求ができる(被害者請求)
  • 損害が確定しなくても治療費など当面の費用を受け取れる仮渡金制度がある
  • 被害者に重大な過失があった場合にのみ保険金が減額される
もし自賠責保険に加入せずに車を走らせると、刑事罰としては1年以下の懲役または50万円以下の罰金、行政罰としては30日以上の免許停止処分を受けることになります。

保険料と保障内容

強制保険である自賠責保険の保険料は、損害保険料算出機構が算出する基準料率をベースに決まります。


具体的には、2022年6月時点の最新の保険料は、沖縄県を除く離島以外の地域における自家用常用自動車の24ヶ月契約の場合、20,010円です。


つまり1年あたり約1万円程度となっています。


その他、主な車種・期間の自賠責保険料は次のとおりです。


図表1:主な車種・期間の自賠責保険料


引用元:国土交通省(自賠責保険ポータルサイト)「自賠責保険(共済)の加入方法」


自賠責保険の保障内容は人身事故によって生じる損害賠償責任ですが、その保険金額(支払限度額)の限度額については、下表のとおり政令で定められています(2022年6月確認時点)。


損害限度額内容
傷害による損害被害者1名につき120万円治療関係費、文書料、休業損害、傷害慰謝料
後遺障害による損害障害の程度に応じて、被害者1名につき最大4,000万円
後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料
死亡による損害被害者1名につき3,000万円葬儀費、死亡逸失利益、死亡慰謝料(本人分・遺族分)

参照:金融庁・国土交通条告示第1号(自動車損害賠償責任保険の保険金等の支払基準)


このとおり自賠責保険には支払限度額があることから、多くの人は対人賠償保険の限度額が無制限である任意保険に加入し、万が一の事故による損害賠償責任に備えています。

自賠責保険の仕組みが改正



自賠責保険の仕組みが変わることになっています。


具体的には、自動車損害賠償保障法及び特別会計に関する法律の一部を改正する法律案が2022年6月9日に成立し、同年6月15日に公布されました。


施行日は一部を除いて2023年4月1日です。


この法改正によって具体的に何が変わるのかについて解説していきます。

保険料が約150円値上げ

まず、自賠責保険の保険料が、1台あたり年間150円を超えない範囲で値上げされる方向で議論が進められています。


値上げの背景にあるのは、被害者支援や事故防止事業の充実を図りたいところ、このまま行けば財源が枯渇してしまうという状況です。


財政状況について説明すると、国土交通省が所管する自動車安全特別会計には次の勘定が設定されています。


  • 保障勘定:無保険車やひき逃げによる事故の被害者を救済する保障事業
  • 自動車事故対策勘定:被害者支援や事故防止を推進する自動車事故対策事業


保障勘定は自動車ユーザーが負担する1年あたり16円の賦課金を収入としていますが、自動車事故対策勘定は一般会計からの繰戻しと積立金の取崩し、積立金の運用益からまかなっています。


金利水準は著しく低く、積立金の運用収入でまかなう財政スキームはすでに破綻。

一般会計の財政も苦しく繰戻しの増額も期待できないなか、このままだと令和20年度(2038年度)には積立金が枯渇してしまうという問題が指摘されていました。


そこで財政運営の安定性確保に向け、保障勘定と自動車事故対策勘定を統合したうえで、自動車ユーザーが負担する賦課金を拡充する方向で議論が進められています。


図表2:自賠責保険料の値上げ


引用元:国土交通省「第7回 今後の自動車事故対策勘定のあり方に関する検討会 資料2」


今後、賦課金については「自動車事故対策勘定のあり方に関する検討会」にて年間150円を超えない範囲で検討を進め、2022年秋頃に最終取りまとめを行う計画です。


図表3:自動車事故対策勘定のあり方に関する検討会の進め方


引用元:国土交通省「第8回 今後の自動車事故対策勘定のあり方に関する検討会 資料2」

被害者支援が充実化する

自賠責保険の保険料は年額150円以下での値上げが検討されていますが、その分、被害者支援や事故防止対策が充実します。


法案審議における附帯決議では、「新たな賦課金を求めることとする以上、効果検証を適切に行うとともに、毎年実施すること。」とされました。


さまざまな施策が行われていますが、例えば弁護士が自動車事故の相談や指導・示談あっせんを行う事業を進めたり、グループホーム等の新設支援などにより被害者受入環境の整備をしたりします。


値上げについて当然賛否は分かれますが、被害者支援や事故防止対策の充実にどれだけつながるかを注視すべきでしょう。