この記事の監修者 井村 那奈 フィナンシャルプランナー
ファイナンシャルプランナー。1989年生まれ。大学卒業後、金融機関にて資産形成の相談業務に従事。投資信託や債券・保険・相続・信託等幅広い販売経験を武器に、より多くのお客様の「お金のかかりつけ医を目指したい」との思いから2022年に株式会社Wizleapに参画。
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この記事の目次
- 不動産の生前贈与は相続税の節税対策になる?
- 将来値上がりしそうな不動産は生前贈与が得策
- 親子間の贈与は2500万円以下なら非課税
- 結論:相続と生前贈与はどっちが得?
- 相続税対策で不動産の生前贈与をするならFP相談がおすすめ
- 不動産を活用した生前贈与で相続税対策をするメリット
- 希望する相手に確実に贈与できる
- 手持ちの財産を減らすことで相続税対策になる
- 認知症のリスク対策になる
- 不動産を活用した生前贈与で相続税対策をするデメリット
- 贈与税は相続税よりも高い
- 小規模宅地等の特例が使えない
- 相続開始前7年以内の贈与は相続税の課税対象になる
- 不動産の生前贈与にかかる税金・費用一覧
- 不動産取得税
- 登録免許税
- 贈与税
- 不動産の生前贈与で必要な手続き・書類
- 贈与契約書を作成する
- 名義変更登記を申請する
- 贈与税の申告を行う
- 【まとめ】不動産の生前贈与で賢く相続対策をしよう
不動産の生前贈与は相続税の節税対策になる?
不動産の生前贈与は、相続税の節税につながる可能性があります。値上がりが期待できる不動産や賃貸収入のある物件は、早めの贈与が効果的です。
ただし、贈与税は相続税より税率が高いため慎重な判断が必要です。親子間の贈与では相続時精算課税制度を利用すれば、2,500万円まで非課税となります。
贈与と相続のどちらが有利かは、不動産の将来性や家族構成、税制優遇の条件を総合的に検討して決めましょう。
将来値上がりしそうな不動産は生前贈与が得策
将来の価値上昇が見込める不動産は、早めの生前贈与が税金面で有利になります。再開発計画がある地域や新駅建設予定地の近くの不動産は、10年後には現在の2倍以上の価値になることも珍しくありません。
このような物件は、値上がり前に贈与することで、将来の高額な相続税負担を避けられます。賃貸マンションなどの収益物件は、家賃収入が毎年発生して相続財産が増え続けるため、早期の生前贈与がおすすめです。
現在4,000万円の賃貸マンションが年間300万円の家賃収入を生み出す場合、10年後には相続財産が7,000万円以上に膨らむ可能性があります。
生前贈与を活用すれば、増加分への課税を回避しつつ、受贈者が家賃収入を得られるようになります。
親子間の贈与は2500万円以下なら非課税
2024年の制度の見直しにより、相続時精算課税の制度は、さらに使いやすくなりました。
60歳以上の親から18歳以上の子どもへの贈与では、2,500万円の特別控除に加え、年間110万円の基礎控除が新しく設けられ、合わせて最大2,610万円までの税金のかからない贈与ができます。
たとえば4,000万円の不動産を贈る場合、2,610万円までは税金がかからず、超えた分の1,390万円に対して20%の贈与税(278万円)が必要なだけです。
ただし、この制度を選ぶときは注意が必要です。一度選ぶと暦年課税に変えることはできず、将来の相続の時には贈与した財産が相続財産に加えられます。また、この制度は親子の間でしか使えず、配偶者や兄弟姉妹には当てはまりません。
結論:相続と生前贈与はどっちが得?
生前贈与と相続の選び方は、不動産の特徴や将来性によって税の負担が変わってきます。相続の時の登録免許税は評価額の0.4%ですが、生前贈与では2%が必要です。
たとえば評価額が5,000万円の場合、相続なら20万円、生前贈与なら100万円と5倍もの差が出ます。不動産取得税も加わるため、生前贈与は税の負担が高くなりやすいです。
ただし、相続時精算課税の制度を使えば、60歳以上の親から18歳以上の子どもへの贈与で2,500万円まで税金がかからず、それを超えた分も一律20%の課税となります。
相続税対策で不動産の生前贈与をするならFP相談がおすすめ
不動産の生前贈与では、物件の将来性や家族構成、各種特例制度の適用可否など、多角的な検討が必要です。
相続時精算課税制度を活用すれば2,500万円までの非課税枠が使える一方、自宅なら小規模宅地等の特例で評価額を最大80%減額できるなど、状況によって有利な選択が変わってきます。
相続と贈与、どちらが税負担を抑えられるのか、具体的な数字に基づいて判断するためにも、専門家のアドバイスが欠かせません。
複雑な制度の活用を税理士に相談すると高額な費用が必要となります。FPなら無料や低価格で相談できるケースが多く、ご自身に最適な贈与方法を見つけられるでしょう。
不動産を活用した生前贈与で相続税対策をするメリット
不動産の生前贈与には、相続税対策以外にも重要なメリットがあります。
希望通りの相手への円滑な資産移転、財産の圧縮による相続税の軽減や認知症に備えた早期対策など、さまざまな観点から検討が必要でしょう。
希望する相手に確実に贈与できる
生前贈与では、贈与する相手と時期を自由に選べるため、計画的な資産の引き継ぎが可能です。相続の場合、遺言書がないと遺産分割協議で相続人全員の合意が必要となり、不動産の共有状態に陥りやすくなります。
共有者間で売却や改修の判断が分かれると、適切な不動産活用ができなくなるリスクもあります。一方、生前贈与なら不動産の将来的な管理・運用能力がある相手を選んで確実に引き継ぎが可能です。
手持ちの財産を減らすことで相続税対策になる
生前贈与は相続財産の圧縮に効果的です。賃貸不動産の場合、贈与時の評価額に加えて、将来発生する家賃収入も相続財産から除外できます。
たとえば月50万円の家賃収入がある不動産を生前贈与すれば、年間600万円の収入増加分が相続財産に加算されるのを防げます。
さらに、不動産と生命保険を組み合わせることで、より効果的な相続税対策が可能です。生命保険金には非課税枠(法定相続人1人あたり500万円)があり、不動産の生前贈与と併用すれば大きな節税効果が期待できます。
認知症のリスク対策になる
認知症で判断力が低下すると、不動産を売ったり、賃貸契約を結んだり、といった重要な法的な手続きができなくなります。
遺言を作るときの判断力が疑われると、遺言そのものが無効になる可能性があるため、早めの準備が大切です。認知症の症状は、軽い段階から少しずつ進んでいきます。
生前贈与なら、まだ判断力が十分にあるうちに信頼できる人に不動産を確実に引き継ぐことが可能です。
不動産を活用した生前贈与で相続税対策をするデメリット
生前贈与には注意すべき重要なポイントがあります。贈与税率の高さ、特例適用の制限、相続時の課税リスクなど、慎重な検討が必要です。
デメリットを理解したうえで、各ケースに応じた最適な方法を選択しましょう。
贈与税は相続税よりも高い
贈与税は相続税と比べて税率が高く設定されています。相続税は6億円超で最高税率55%となるのに対し、贈与税は3,000万円超から55%の適用です。
4,000万円の不動産を贈与すると、基礎控除後の金額に50%の税率がかかり、1,530万円もの贈与税が発生する可能性があります。
1. 基礎控除の適用
贈与額から基礎控除額110万円を差く
4,000万円 - 110万円 = 3,890万円(基礎控除後の課税価格)
2. 税率の適用
基礎控除後の課税価格3,890万円に対して、贈与税の税率表を適用
3,890万円は「3,000万円超」の区分に該当するため、税率50%
3. 贈与税額の計算
3,890万円 × 50% - 415万円(控除額)
= 1,945万円 - 415万円
= 1,530万円
小規模宅地等の特例が使えない
小規模宅地等の特例は相続時のみ適用される制度で、生前贈与では利用できません。この特例を使えば、自宅や事業用地の評価額を最大80%減額できるため、相続のほうが税負担を抑えられる場合があります。
被相続人と同居している場合や事業を引き継ぐ場合は、この特例の活用を検討する価値があります。
相続開始前7年以内の贈与は相続税の課税対象になる
2024年の税制改正で、相続前の贈与財産の加算期間が7年に延長されました。贈与から7年以内に贈与者が亡くなると、その贈与財産は相続財産とみなされ、相続税の課税対象となります。
たとえば、5,000万円の不動産を贈与後5年で贈与者が亡くなった場合、贈与時に支払った贈与税が無駄になってしまう可能性があります。 このリスクを避けるため、早めの生前贈与計画が重要です。
不動産の生前贈与にかかる税金・費用一覧
生前贈与では、不動産取得税、登録免許税、贈与税など、複数の税金が発生します。それぞれの計算方法や軽減措置を理解し、総額の把握が重要です。
不動産の評価額によって税額が大きく変わるため、事前に専門家に相談し、適切な対策をたてましょう。各種控除や特例制度を活用すれば、税負担を抑えることも可能です。
不動産取得税
不動産取得税は、取得方法に関わらず課される地方税です。2027年3月末までは土地・居住用建物は固定資産税評価額の3%、それ以外の建物は4%となります。
また、土地は評価額を1/2にできる特例もあります。
6,000万円の居住用不動産
「6,000万円×1/2×3%=90万円」の不動産取得税が必要
登録免許税
登録免許税は、不動産の所有権移転を登記する際に必要となる国税です。生前贈与の場合、その不動産の固定資産税評価額に2%の税率を乗じた金額が課税されます。
・評価額3,000万円の不動産を贈与
「3,000万円×2%=60万円」の登録免許税が発生
相続による所有権移転の場合は税率が0.4%に軽減されます。
・ 相続による所有権移転
「3,000万円×0.4%=12万円」の登録免許税が発生
贈与税
贈与税は、1年間に110万円を超える財産を贈与された場合に課される税金です。贈与税の税率は10%から最高55%まで段階的に上がり、贈与額が多いほど高い税率が適用されます。
実家の土地(評価額3,000万円)を親から贈与された場合基礎控除110万円を差し引いた2,890万円に対して45%の税率が適用され「2,890万円×45%-265万円(控除額)=1,035万5,000円」の贈与税が発生します。
- 基礎控除後の課税価格:3,000万円 - 110万円 = 2,890万円
- 適用税率:45%(基礎控除後の課税価格が1,500万円超3,000万円以下の場合)
- 控除額:265万円 贈与税額:2,890万円 × 45% - 265万円 = 1,035万5,000円
不動産の生前贈与で必要な手続き・書類
不動産の生前贈与を行うためには、贈与契約書の作成から税金の申告まで、いくつかの重要な手続きが必要です。それぞれの手順を詳しく解説します。
贈与契約書を作成する
贈与契約書は、不動産の贈与を証明する重要な法的文書です。親子間や夫婦間など、親密な関係であっても必ず作成する必要があります。
贈与契約書には、贈与する不動産の所在地や面積、贈与者と受贈者の氏名・住所などの基本情報を正確に記載します。物件の特定には、事前に法務局で取得した登記事項証明書の内容を参照するとよいでしょう。
契約書作成の際は、贈与の時期や条件、固定資産税などの諸経費の負担方法についても明確に記載することが重要です。
贈与契約書は登記申請時の「登記原因証明情報」としても使用されるため、作成時は司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
名義変更登記を申請する
不動産の贈与が成立したら、所有権移転の登記申請を行います。この手続きは、対象となる不動産を管轄する法務局に申請します。
登記申請には、贈与契約書の他にも多くの書類が必要となります。必要な書類を確認しましょう。
- 登記申請書
- 登記識別情報(または登記済証)
- 贈与する不動産の固定資産評価証明書
- 贈与者の印鑑証明書
- 受贈者の住民票
贈与税の申告を行う
不動産の贈与を受けた場合、原則として翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の申告が必要です。贈与税は、年間110万円を超える贈与を受けた場合に課税されます。
申告は受贈者本人が行う必要があり、申告期限を過ぎると加算税などのペナルティが発生する可能性があるため注意が必要です。
相続時精算課税制度を利用する場合は、贈与額が110万円以下であっても申告が必要です。配偶者控除などの特例制度を利用する場合も、適切な申告手続きが欠かせません。
【まとめ】不動産の生前贈与で賢く相続対策をしよう
不動産の生前贈与は相続税対策として有効ですが、メリットとデメリットを慎重に検討する必要があります。値上がりが期待できる不動産や収益物件は早めの贈与が効果的ですが、贈与税率の高さや特例が使えない点がデメリットです。
一方、相続時精算課税制度を活用すれば2,500万円まで非課税になるなどの優遇措置もあります。ただし、自宅や事業用不動産では相続の方が有利な場合もあるため、不動産の特性や家族構成などを総合的に考慮することが重要です。
不動産の生前贈与は個々の状況により異なるため、賢く相続対策を行うなら個別相談がおすすめ。また、家族が一緒に相談できるオンラインでの相談がよいでしょう。
賢く相続対策を行うなら、マネーキャリアの個別相談を試してみてはいかがでしょうか。ファイナンシャルプランナーが中立的な立場から何度でも無料で相談に応じます。オンラインに対応しているので、全国どこからでも相談が可能です。